2010年3月7日日曜日

Glenn Gould / Beethoven 5th Synphony (Liszt)

しだいにマニアックな方向に進んできたクラシック音楽ネタで、ますます読む人がいなくなっていくのは必然。まぁ、それもしょうがないと、なかば開き直ってしまうのです。そんなわけで、今回もかなり深みにはまった話。

フランツ・リストはクラシックピアノを一つのジャンルとして確立した巨匠であることは誰もが認めるところですが、じゃあどういうところが功績なのか。

もちろんあまり偉そうなことを言えるほど知っているわけではありませんが、まずはピアノという楽器の持てるポテンシャルを最大限に生かした多くの作曲をしたこと。有名な超絶技巧練習曲をはじめ、難度の高いテクニックを要求される棘が多く、ピアニストは登山家にとってのエベレストのように征服したくなる大きな目標になっています。

そして、もう一つ忘れてはならないのは、多くのピアノ用の編曲を残していることです。ベルリオーズの有名な幻想交響曲やシューベルトの歌曲集(冬の旅、白鳥の歌など)の多くをピアノ用に編曲しています。そのほかにも多くの歌劇作品の編曲もあるんです。

リストはこれらの編曲を各地での演奏会で弾きまくっていたということです。これは、ピアノという楽器を一般に広めるということと、それらの曲を知らしめるという二つの効果がありました。

実際、レコードやCDのようなものが無かった時代ですから、音楽は生演奏を聴くしかありません。シューベルトの歌曲が知れ渡ったのはリストの功績と言っても言い過ぎではないでしょう。また、オペラも安々と一般庶民が楽しむことは困難であったでしょうから、簡単にピアノ一台で楽しさを伝えたことは重要です。

そんなわけで、もう一人、リストの編曲で恩恵を受けたであろう作曲家がいます。誰あろう、ベートーヴェンなのです。一部の室内楽の編曲もありますが、リスト編曲史上最大の物が、交響曲全9曲のピアノ編曲版なのです。

カツァリスの全曲演奏は有名で、そのほかにも全集録音をしているレスリー・ハワードは当然として、意外に日本人のピアニストによる録音もいくつかあります。そんななかで、自分が聴くのはグレン・グールとの演奏ということになります。

グールドはゴールドベルク変奏曲があまりにも有名でバッハ弾きというイメージが強いわけですが、実はベートーヴェンについても多くの録音を残しているのです。ソナタは最終的には数曲を残して全集にはなりませんでしたが、計画はあったようです。協奏曲は全曲録音。しかも、ストコフスキー、カラヤン、バーンスタインといった有名な指揮者との競演があります。

交響曲については第五の運命と第六の田園の2曲について録音があります。グールドはモーツァルトの享楽主義的な明るさを徹底的に否定し、ベートーヴェンの英雄主義にも疑問を投げかけていたので、運命の選曲には多少の違和感を感じますが、やはり演奏としても楽しめるのは田園の方でしょうか。

オーケストラから比べると音域・音色ともにピアノ1台で表現するには、相当音符を絞り込んでいかないといけません。その分、田園のようにもともと静かな曲想の曲の方が、違和感が少ないのかもしれません。

いずれにしても、演奏会や録音で本物を聴くことが容易になった現代ではこの手の編曲物は際物的な扱いを受けることが多く、リストの作品群の中でも軽く見られがちではないでしょうか。確かに、最初からこっちを聴くこともないとは思いますが、時にちょっと気楽に耳を傾けてみてもいいかなと思うのです。