整形外科のテリトリーは疾患が少なく、どちらかというと外傷が中心と思われがちです。まぁ、実際そうなんだからしょうがない。変形性関節症、変形性脊椎症といっている病気は大変多くの患者さんにみられるわけですが、これらは加齢性の問題が大きいので、純粋に病気かというとちょっと違うわけです。
その中で関節リウマチは数少ない整形外科の純然たる病気なのですが、治療戦略の進歩により外科的治療の機会は減少し、どちらかというと内科的側面がしだいに膨らんでいることは否定できません。
他には痛風という疾患がありますが、これも根本的な病態は高尿酸血症という代謝性疾患であり、もともと外科治療の介入することはまずありません。筋肉の病気も通常は神経内科の範疇です。
となると、脊椎・脊髄障害、末梢神経障害、腱鞘炎やテニス肘のようなOVERUSE(使いすぎ)による病気、あるいはスポーツによる障害などが純然たる整形外科疾患として残ることになるのかも知れません。
骨腫瘍というのも病気らしい病気なのですが、何しろ頻度が少ないために整形外科医ならだれでも経験できる疾患ではありません。
整形外科というのは、もともと外科から分離独立したもので、一般には四肢・脊椎、あるいは骨・筋肉・末梢神経といった運動器の疾患と外傷を扱うものととされています。
高齢化社会となって、加齢性変化による問題を抱えた患者さんが増えていくわけで、整形外科の患者さんが増えることはあっても減ることはないと思われています。
自分も確実に老化してきているわけで、将来の患者予備軍に確実にリストアップされていることを実感しますし、そのような患者さんへの対応は大変重大な課題であることは間違いありません。
しかし、医学的な、学問的な将来性という観点からはなかなか未来への展望というのが見いだしにくくなってきているということも言えると思います。
自分が医者になった四半世紀前に、整形外科の中心的な基礎研究課題は「軟骨の再生」と「神経の再生」でした。それは今でも重要な問題の一つですが、ほとんど解決されていないと言っても過言ではありません。
医学全体の研究が遺伝子関連にシフトしていることもあり、整形外科の研究も軟骨・神経を再生させることよりも、作り出す -新生- ことにシフトしてきているようですが、それでもなかなか一筋縄ではいかないようです。
逆説的な話ですが、再生医学の進歩は平たく言えば老化現象の抑制であり、その結果さらに高齢化が進むということかもしれません。となると、永遠にいたちごっこのようなもので、解決することはないのかもしれません。
いずれにしても、整形外科医の立ち位置というものもしっかりと考えていかないといけない時代にさしかかっているのだと思います。外科的手法を中心に考えているだけでは、おそらく存在価値は減少の一途をたどるだけです。自分たちにできることは、そのあたりをしっかりと次の世代に伝えていくことなのかもしれません。