久しぶりに本を買いました。タイトルからして、さもありなんというようなもので、どうせ読むならもっと他に意義深い物がいくらでもあるよと言われそうです。
グレン・グールドは、言わずと知れたクラシック・ピアニスト。若くしてバッハのゴールドベルグ変奏曲のレコードで一躍有名となりました。このレコードはいまだに売れ続ける、クラシック音楽会のロングセラーとなっています。
それにもまして彼を伝説の人としているのが、数々の非凡な行動や言動であることは、いまさら説明するまでもありません。
演奏するときはこどもの頃から使っている椅子を自分でセットして、床すれすれの低い位置に座り、鼻を鍵盤にこすらんばかりの姿勢で演奏します。
演奏しながら、しばしば鼻歌のように自分で声を出し、それがまたレコードに克明に記録されている。演奏しながら、片手があくと指揮者のように振り回す。
大指揮者レナード・バーンスタインにはテンポの注文を出し、コンサート前にバーンスタインは客に向かって「これは自分の意図する演奏ではない」と異例のアナウンスをしました。
人気絶頂の時に、人前で演奏することが嫌になりコンサート活動をしなくなりました。そして、ひたすらレコード制作に専念するという、およそクラシック・ピアニストとしては不思議な活動を行いました。
モーツァルトは享楽主義として切り捨て、ベートーヴェンの英雄主義には意義を唱え、夏目漱石の「草枕」を愛読し、ビートルズを批判しました。
録音では、当時ポップスでは当たり前のように行われていた録音テープの切り貼り編集を行い、最良の音を残すことに集中し、これもまた普通のクラシック音楽の批評家の格好の攻撃の的となりました。
四半世紀にわたる音楽活動は、ゴールドベルグ変奏曲の再録音で締めくくられ、レコードが発売されてすぐに脳出血で亡くなったのは、わずかに50歳の時だったのです。
ちょっと、思い出すだけでもいろいろなエピソードが様々な尾ひれをつけて語られているのです。グールド自身が残した厖大な文章もありますが、グールドはいつでも鎧を身につけて話としてはよくわからない。
この本は、アメリカの有名な「Rolling Stone」誌に掲載されたロング・インタヴューを元に構成された物で、グールドもクラシック関係の雑誌の取材ではないのでけっこう気楽にしゃべっていたのか、おそらく正直にいろいろなことを話しているように思えます。
訳者はグールド研究では日本の第一人者の宮澤淳一ですから、もうグールドの言いたいことはまったくお見通しで、実にストレートですが、わかりやすい文章となっていて読みやすい。
それにしても、正味200ページもない、この薄い文庫本が1100円というのは・・・随分と本も高くなった物です。これでは、ますます活字離れは進むのはいたしかたがないところでしょうか。