2010年11月1日月曜日

リスナーのためのクラシック・ピアノ ~ 初級編

ピアノは他の楽器と比べて、自分でも演奏する、あるいは演奏した経験をもっている方が多いわけです。その点、演奏する立場からは、やや聞き手に耳年増が多く不利な楽器ということが言えます。

それだけ、ポピュラーな楽器であり、限られた資産の中では大変多くの楽曲があるのです。これは、ピアノが独奏楽器でもあり、伴奏楽器でもある、オーケストラに匹敵する音を出せることにも関係があるのでしょう。

しかし、そうなると聴く側としても何を聴くのか迷ってしまうことが多々あります。年代を追っていくのか、好きな演奏家に絞って聴いていくのか。人それぞれの方法があることと思いますが、ここではリスナーのマニア度によって、自分が勝手に聴いて欲しいものを推薦していきたいと思います。

今回はまだまだピアノの魅力に気がついていない、またはちょっと気になり始めた初心者のリスナーの方向けに、いくつか自分のお気に入りを紹介します。

初心者に物を勧めるのは、意外と難しいということは多々あります。何が初心者向けなりかという、一定の基準があるわけではなく、物事に対する価値観は人によって千差万別です。

そこで、単純にいろいろな演奏家によって多くの録音があるもの、つまり手に入りやすいもの。演奏する側も弾きこなしてみたくなるものであろうというものを選んでみましょう。

何と言っても、録音の多さでダントツなのは、ピアニストにとって「聖書」という扱いをされている二つの作品群をあげないわけにはいきません。

「旧約聖書」と呼ばれているのが、J.S.バッハにより作曲された「平均律クラーヴィア曲集」です。そして、「新約聖書」に例えられるのがベートーヴェン作曲の32のピアノ・ソナタ。

その中間の時期をうめるものとして、モーツァルトのピアノ・ソナタも録音の多さでは、ぴかいちの人気を誇る作品群であると言えるでしょう。

そして、最後にピアノと言えばショパン、ショパンと言えばピアノというくらいですから、ショパンをはずすわけにはいきません。数あるショパンのピアノ作品の中で、特にノクターン(夜想曲)をここでは揚げておきたいと思います。

これらの4つの作品群の中には、いろいろなタイプの音楽が詰まっていて、中には面白くないと思われるようなものもあるかもしれません。しかし、そういうものも含めて、とにかく一度は聴いておくべき価値のあることは、万人が認めるところではないでしょうか。

少なくとも、クラシック・ピアノを嫌いになるなら、少なくともこれだけは聴いてからにしてもらいたい。これを聴いてダメなら、潔く撤退してもしょうがないと思います。

厳密にはバッハの時代(バロック)には、まだピアノという楽器はなく、鍵盤楽器と言えば、チェンバロかオルガンであったわけです。モーツァルトの時代(古典)になるとピアノフォルテという現在の形の元型が広まり、そしてベートーヴェンの時代(古典末期)に現在のような形が完成されました。

この間にピアノを弾くための技術的な進歩もどんどん進み、それに連れて曲そのものの表現の幅も拡大していったわけです。そしてショパン(ロマン派の時代)によって、演奏表現が確立されたというが、クラシックピアノの歴史の中での一定のコンセンサスが得られている事実です。

その後の展開については中級に譲るとして、ここまでの流れをはずすことはおそらく初級レベルでは不可避であり、まずはとっかかりとして是非聴いていただきたい。

演奏者は誰でもいいとは言いませんが、まさに個人の好みの分かれるところなので、なかなか一つに絞ることは難しい。ここにあげたすべての録音をのこしている演奏家がいないので、一人のピアニストで制覇することは難しい。

あえて、それに近いピアニストを探すと思いつくのはクラウディオ・アラウくらいでしょうか。個人的には大好きなピアニストなのですが、やはりそれぞれ名演として規範たる録音をお奨めする方がよさそうです。

古いピアニストならば、バッハはグールドかリヒテル、モーツァルトはギーゼキングかクラウス、ベートーヴェンはバックハウスかケンプ、そしてショパンはルービンシュタインかアラウといったところが手に入りやすさを加味するとお奨めでしょうか。

現役はもうあまりにありすぎて、選びようがありません。あえて、自分の好みで選んでみるなら、バッハはヒューイット、モーツァルトは内田光子かピリス、ベートーヴェンはメジューエワ、ショパンはアシュケナージをあげておきます。