このブログでは、関節リウマチ診療は21世紀になって飛躍的な展開をしたと度々書いてきました。これは内服薬のリウマトレックス(メソトレキサート)が発売になったのが1999年で、それまでの薬に比べて画期的な治療薬となったことが一番の要因です。
続いて、2003年に初めての生物学的製剤(略してバイオと呼ばれます)であるレミケード(インフリキシマブ)が登場し、病気の抑制よりも治癒の道が開けたといっても過言ではありません。
その後、毎年のように新たな注射で用いるバイオ製剤が登場し、昨年ついに内服のタイプの登場に至ります。このバイオ10年は、リウマチ診療に携わるものとしては、あまりの情報量に四苦八苦する毎日でした。
治療学のみならず、診断学として、新たな有意義な検査項目の登場や、20数年ぶりの診断のための分類基準の改訂もあり、「リウマチは治らない」から「リウマチを治す」に向けて、大きく舵取りが変わったことは医学史の中に記憶されるべきポイントです。
その結果としては、実はまだ完全な成果は出ていないかもしれないのが現状です。なぜなら、今でも「リウマチは治ります」とは患者さんに説明はできません。
病気が治るのは治癒ですが、リウマチでは寛解という用語を使っていて、「ほぼ治っているが、再発の危険は残る」という意味が含まれます。
現実に、バイオ製剤を導入した患者さんの多くが寛解状態になりますが、投薬を中止すると多くの患者さんは再発してくるというのは、ほとんどのリウマチ医が持っている印象です。
先月あった日本リウマチ学会では、大雑把に言うと1/2は再発し、再開しても同じ薬では1/2は効果が出にくいという感じの発表もありました。このあたりの、治療をやめれるのか否か、あるいはどうやったらやめれるのか、というような点については、まだまだデータがそろっていません。
そして、バイオ10年の患者さんへの影響は、もちろん大きな変形に至ることはなくなり、快適な生活を続けられるようになったことは画期的な変化です。その一方で、非常に高額な薬剤費用により、経済的な圧迫が増えた事が個人レベルだけではなく、医療費全体に携わる厚生行政にも影響したことも否めません。
製薬会社の宣伝の理屈、あるいは一部の大学のお偉いさんの言い分によれば、より通常の生活を送れる事により、経済活動が可能になり、高額な薬剤費を吸収できるのだからいいだろう、という話になります。
しかし、それでは働いて毎日を生きていく目的がリウマチという病気のためになってしまうわけで、本来の人生の目的とは違うと思うんですよね。病気とは別に、豊かな人生が送れることが重要なはずです。
学会はリウマチ診療のガイドラインを、「バイオ製剤を第一選択」にする主旨の改定をすると発表しました。もちろんそれは病気を治そうとする立場としては正しい方向性だと思いますが、注意しないといけないのは「病気だけを見て、患者さんを見ない」という医者の自己満足にならないようにすることです。
バイオ製剤は、準備中のものがたくさんあり、今後もいろいろと登場してくると思います。しかし、次の10年間は、医者は大変なんですが、「寛解から治癒」への道を確立するために進歩が期待されます。特にiPS細胞のような再生医療や遺伝子レベルの研究成果が、目に見える形となってくることを期待します。