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2014年5月19日月曜日

バッハ・カンタータ全集いろいろ

バッハの偉大なる遺産の中で、非常に大きな部分を占めているのがカンタータというジャンルです。現存するものが、教会カンタータで200曲、世俗カンタータで20曲程度あり、バッハ研究者および演奏者にとっては、そしてバッハ愛好家にとっても、一度は踏破してみたい巨大な山麓です。

愛好家は、ただ聴くだけですから一番楽をしています。とは言え、これだけの量があると、手当たりしだい行き当たりばったりで聴いていくとわけがわからないことになる。

そこで、ほとんどが演奏される目的があるカンタータであり、特に教会カンタータは教会暦にのっとって演奏されたわけですから、暦にあわせて聴いていくと、毎週3曲程度。特別な祝日があると、大変ですが、1年間で聴いていくにはちょうどよさそうなペースです。

また、バッハが作曲した年代もだいたいわかっているので、その順番を意識して聴いていくという方法もあります。よほど注意深い愛好家ならば、どこかで以前に耳にしたフレーズが再登場するのに気がつくでしょう。これらのパロディを極めるという、大変高度な楽しみ方もしやすくなります。

演奏目的と作曲順を組み合わせて聴くという、当時の教会に集った人々のリアルタイムな感動を再現しようという方法もあることはありますが、これはすべて聴き終るのに5年以上かかってしまいますので、さすがに無理。

演奏家にとっても、非常に困難な仕事になるので、録音で全集という形を残した人はそう多くは無い。

初めて一人の指揮者によって完成された教会カンタータ全集は、ヘルムート・リリングによるもので15年間かかって1985年に完成しています。これは、最初の偉業として、十分に歴史的な価値を伴うモダン楽器による記念碑といえます。

今では、Haensslerのバッハ全集の中に丸ごと含まれていて、数万円でバッハのすべてと共に手に入りますし、カンタータだけでも71枚組の単売が1万円以下で売られています。

Brilliantからもバッハ全集が出されていますが、その中に含まれるのはピーター・ヤン・リューシンクという指揮者の古楽器使用のもの。値段は一番安いのですが、2000年の全集発売に合わせて1年程度で、一気に録音されたもの。評判は、曲によってはいいらしいのですが、さすがに有名どころと比べるのは酷というところ。

もう一つあるバッハ全集はワーナーのもので、EratoやTeldecを中心に一番有名な演奏家のものが集まっています。カンタータはニコニス・アーノンクールとグスタフ・レオンハルトによる共同制作なので、一人の指揮者によるとは言えませんが、名演ぞろいで評判の良い全集です。

トン・コープマンによるものは、古楽器による最初の、 そして世俗カンタータも含むCD67枚の完全な全集です。1994年から始まって、2006年に完結。異稿やミサ・ブレビスなども含まれていて、その上カンタータ関連の書籍としては最強の「バッハ=カンタータの世界(全3巻)」という書籍まで登場したツワモノです。

そして次に登場するのが、我らがガーディナー先生によるもの。これは、1999年のクリスマスから1年間かけて、毎週各地で行ったカンタータ巡礼という企画を収録したもの。教会暦に沿って演奏されたことが最大の特徴で、1年間の間、毎週新たに数曲の演奏を披露するというのは尋常ではない労力を要するチャレンジです。

しかし、同じ指揮者、演奏団体が短期間に集中して行ったことは、全体の統一感につながり、ライブ収録の割には録音も大変素晴らしい。あとは、何とか世俗カンタータも網羅してもらえれば完璧です。

そして、現時点で最強の教会カンタータ全集として完結したのが、 1992年から2013年の21年間を費やした鈴木雅明とバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)によるもの。今年の7月に全集ボックスとして、すべてSACDとして発売が予定されています。

日本人がバッハ、それも宗教曲? という感じがしますが、その緻密な演奏スタイルは今までのどれよりも世界的に高い評価をされているのです。考えてみれば、ドイツ人のバッハによる、ドイツ語のカンタータですが、ガーディナー先生だってイギリス人ですから、クリスチャンの鈴木雅明が宗教曲を演奏することに何の問題もありません。

ドイツ語の発音などが、しばしば評価に影響するようですが、BCJは発音・発声の明瞭さでも定評があります。初期メンバーには、「もののけ姫」でブレークして方向性が変になったカウンターテナーの米良美一が参加していて、これも評判が高かったようです。

値段は高額ですが、一番の強みは1000ページを超える解説が付属しているということ。歌詞の内容についても、すべて日本語対訳がつくのはありがたい。他のものはすべて輸入盤でしか手に入らないので、ドイツ語、英語、フランス語のどれかが理解できないとブックレットは有っても無いようなものです。世俗カンタータのシリーズも順じ録音が続いているようで、今のところ半分くらいが発売されています。

バッハ演奏では、神格化されたカール・リヒターによるカンタータは、全集を目指していたのでしょうが、リヒターが比較的早くに亡くなったため未完。現在、世界が認める古楽演奏のヘレヴェッヘも、カンタータはまだ半分以下の収録です。

もちろんお勧めは、ガーディナー先生のものが、内容的にも値段的にもリーズナブル。すべてを聴きたければ、ちょっとお高めですがコープマン、芸術的最高峰を目指すならBCJ(10万円!!)というところ。最低限の選集でよければ、リヒターでしょう。

こんな訳のわからないブログを、たまたま見てしまったあなた、是非一緒にこんな世界を楽しむのも悪くはありません。今から準備して、クリスマスからスタートというのも理想的です。

追記
意外にも、このエントリーへのアクセスが多い。あらためて知識が多少ふえたところで書き直しました。そちらもご覧ください