どうせバロック全体を眺めるついで、と言っては失礼ですが、一応カトリックの総本山のあるイタリアからヴィバルディにも登場してもらいましょう。
フランスにもクープラン(1668 - 1733)という有名人がいるのですが、なにしろフランス人は「フランスにはバロックはない。あるのはフランスの音楽だけだ」ということらしい。
もっもと、クープランの代表作は鍵盤曲でクラブサン(チェンバロのフランス語)曲だけで200曲以上。またルイ14世の御前で毎週室内楽を演奏したコンセールが残っています。声楽曲は作ったかもしれませんが、まったくと言っていいほど遺されていません。
アントニオ・ヴィバルディ (1678 - 1741)はヴェネチア出身で、間違いなくカトリックです。父親はサン・マルコ大聖堂の専属ヴァイオリン奏者で、こどもの頃から父親にヴァイオリンを教わります。
しかも、25歳のときに司祭になっていますから、もうカトリック以外の何者でもありません。髪の毛が赤毛だったことから「赤毛の司祭」と呼ばれていたというのも有名な話。ただ聖職者として全うしなかったのは、喘息の持病のためミサの最中に咳き込んでしまうためだったらしい。
おかけで多くの音楽を作ったのですから、何が幸いになるかわからないというのはヴィバルディには当てはまる話です。捨てられたこどもたちの養育を行うピエタ慈善院で、音楽を教えることになって、あの大量の協奏曲シリーズが量産され始めるのです。
30歳代になるとオペラ作家として人気がどんどん高まり、ヨーロッパ中に名前が知られるようになりました。40歳代に、世界中で知らない人はいないくらい人類史上最大のヒット曲かもしれない「四季」が生まれます。
ホグウッドがコンスタントにヴィバルディの作品を録音してきましたが、去年それらを集めたCD20枚のボックスが発売されています。ただし、これはほとんど器楽曲。一般のクラシックファンには、十分すぎる量の名演です。
宗教曲は、当然仕事が仕事でしたから、そのキャリアの早い段階からコンスタントに作られていて、大作はありませんが、いかにもヴィバルディらしい明るい曲調のものが百数十曲はあるんじゃないでしょうか。
その中で、今でもしばしば取り上げられるのが、''Gloria''、''Manificat''、''Nisi Dominus''などですが、ガーディナー先生はヘンデルで紹介したアルバムが一枚あるだけです。また多くの作品を集成したものとしては、これも先に紹介したV.Negriのものがあれば十分かもしれません。
もう一人、イタリアバロックで忘れてはいけないのがペルゴレージ。1710年に生まれ、ヴィバルディの次世代を担う一人。数多く有る"stabat Mater"の中で、彼の作曲したものは群を抜く人気。
ところが、なんと26歳という若さでヴィバルディよりも早くに亡くなっています。しかし、彼の作品が''Stabat Mater''の一つだけだとしても、その奇跡のような美しさは、宗教曲の中で忘れられないものになっています。
1月に亡くなったアバドは、体調を崩してベルリンフィルを去った後、ピリオド楽器を取り入れ、自分のやりたかった音楽だけを楽しむようになりました。晩年に特に力をいれていたのが、ペルゴレージの作品です。
''Stabat Mater''から始まり、''Salve Regina''、''Dixit dominus''などCD3枚分の宗教曲を録音していますが、どれも元の曲も素晴らしいだけでなく、アバドの自分の寿命を知った上でなのか、その崇高なまでに高められた演奏そのものに聴き入ってしまう名演だと思います。