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2017年5月28日日曜日

悩み深きGouldボックス


グレン・グールドは若くして亡くなってから40年近くたちますが、いまだに根強い人気があり、特にクラシック音楽に限らずマニアックな音楽愛好家からは、圧倒的支持を得ていることは否定できません。

かく云う自分もその中の一人なのですが、今クラシック音楽に興味が持てて楽しめているのも、基本的にはグールドのお陰だということができます。

グールドのゴールドベルク変奏曲の演奏を知らなかったら、譜面通りに演奏することが原則のクラシック音楽は、最低一度、誰かの演奏で聴けば十分で、一般常識の範囲で一通り有名どころさえおさえておけば十分・・・おそらく大多数の人はそうだと思いますが、その中の一人で終わっていたと思います。

グールドが、譜面通りでもそこには演奏家の解釈の仕方によって、まったく別の音楽のようにも聞こえるくらいの違いを生み出していることを教えてくれました。一度そこに気がつくと、クラシックも演奏家の個性が溢れたジャズのように楽しむことができるようになったわけです。

グールドが亡くなって、残された音源は限られていますから、彼の業績をコレクトすることはそれほど難しいことではない・・・はずなのですが、実に困ったことに、音楽業界の常として、商売になる音楽は手を変え品を変え何度も何度も登場してくる。

マニアの心をうまくくすぐることにかけては、レコード会社はもう知り尽くしているわけで、そもそも最も有名といえるデヴュー盤のゴールドベルク変奏曲は、グールドの生前に疑似ステレオ盤が登場し、さらにグールド自身によってリメイク盤まで登場しています。

さらにリメイク盤は当時の始まったばかりのデジタル録音だったのですが、アナログ録音も残っていて、デジタル・マスターだけでなく、アナログ・マスター盤もある。

さらに収録に際して演奏シーンを収めた映画もあり、演奏の別テイクもあちこちにばらまかれている。完全にグールドのタッチをコンピュータ解析して、コンピュータにそっくりそのまま演奏させたものもあったりします。

さらにオリジナルをリマスタリングするというのは、このところの常套手段ですが、一度ならず二度までも大々的なリマスターを行い、そのたびに「全集」がどかーんと発売されます。

このあたりはマイルス・デイビスなんかでも、似たような状況があってもうレコード会社のやいたい放題にマニアは躍らせ続けて、何度も何度も同じ音源を購入させられることになる。

90年代に"Glenn Gould Edition"として、作曲家別に既発音源をまとめた全集が発売されました。その後、繰り返しオリジナルフォームでの単発のCDが何度も発売されていましたが、2007年に"Original Jacket Collection"としてリマスターされ巨大ボックスが発売されています。

実は、ちょっと自分の場合、まじめにマニアとは言えないところがあって、自分の場合Edition版でほぼすべて揃えてしまい、この時点でバッハ物はある程度のダブリが既に生じていました。

ですから、オリジナル・ジヤケットにはあまりこだわりもなく、またけっこうな値段だったので、これについてはリマスターされた音質向上は気になるけど見送りました。

そして今度はオリジナル・ジャケットでの単発発売が続き、2015年に再リマスターされた、今度こそ決定版といえそうな"Glenn Gould remastered"と銘打ったさらに巨大なボックスが発売されました。

しかも、前回のボックスと微妙な編集の違いがあるとかで、マニアはまたもや今度こそ最後だろう・・・と大枚をはたくように仕向けられている(実は最後ではないことは、今までの経験でいくらでもわかっているにもかかわらずです)。

ただ、この2つのボックスは、オリジナルにこだわったを売りにしているのですが、そのためにグールドの死後に発売されたものはまったく無視されている。ですから、こんなに高価で置き場所に困りそうな巨大な箱を手に入れても、結局は「すべて」は揃わない。

これはどうかと思いますよね。商売とはいえ、もう少し親切心があってもいいんじゃないかと思いますけど。死後のものも、そのことを明記してボックスに含めてこそ、グールドという一人の芸術家の偉業を集成できるというものではないかと。

ですから、今回もボックスは見送り。この2つのボックスの間に、バッハものだけを集めた中くらいのボックスは購入したんですが、これはDVD作品もたくさん含まれていたから。音だけだったら買わない。

おかけで、ゴールドベルク変奏曲だけなら、新旧二つの録音だけでも、それぞれ3~4枚のCDを所有するわけで、さすがに満腹感があります。