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2021年2月14日日曜日

パニック・ルーム (2002)

デヴィド・フィンチャー監督は、サスペンス物で一躍有名になったとは言え、実はこれまでの作品は純粋な犯罪物ではありません。この映画で、初めて犯罪をテーマにした、いわゆるクライム・サスペンスを手掛けています。

パニック・ルームはパニックになった時に緊急避難するための部屋という意味ですが、通常はセーフ・ルームと呼ばれている物。日本では、家屋の構造上あまり普及しているとは云い難いのですが、欧米の資産家などでは、シェルター並みに堅牢な作りの隠し部屋を持っていることは珍しくないらしい。

この映画は、たまたま引っ越した家にパニック・ルームがあり、そこに元住人によって隠された遺産を目当てに賊が侵入。母娘がパニック・ルームに逃げ込み、賊と対峙するというストーリーが展開します。タイトルもニューヨークのビル群に、文字が立体的に浮かんでいるところはフィンチャーらしくスタイリッシュ。

パニック・ルームに入った母娘はどうにもできないし、逃げ込まれた側も手も足もだせないという、言って見れば両者が「密室」に閉じ込められたようなシチュエーションが面白い。

スピルバーグとの仕事も多いデヴィド・コープが制作・脚本で、基本的に夜の間の屋内だけの密室劇のような作り。フィンチャーは、サスペンスとして今まで以上に緊張感を高める演出をしています。

母親は当初ニコール・キッドマンが予定されていましたが、直前の出演作「ムーラン・ルージュ」でケガをしたため降板。急遽、フィンチャーの実力を認めるジュディ・フォスターが、カンヌ映画祭の審査員をキャンセルして出演しました。

ところが、撮影中にフォスターが妊娠していることがわかり、お腹が大きくなってくることで、監督は大いに悩むことになりました。さらに娘役のクリステン・スチュワートの身長も伸びてしまって、撮影終了時にはフォスターの身長を上回ったというのも驚きです。ある意味、フィンチャー自身が一番スリルを味わったかもしれません。

三人の賊は、計画を立てたジュニア(ジャレッド・レト)、パニック・ルームの設計者のバーナム(フォレスト・ウィテカー)、荒っぽいことが平気なラウール(ドワイト・ヨアカム)で、それぞれのキャラクターは明確でわかりやすい。

カメラは人が通れない所を自然と通過するよなスムースな動きがあったり、縦横を回転させるような場面などで、見るものの視点を自在に操っているかのようです。この辺りは、サスペンスの神様、ヒッチコックの映画を意識しているように感じます。

また娘は糖尿病があり、腕時計型の血糖計測装置の数字を時々見せる事で、サスペンス度をさらに増していくのも面白い。後半で、低血糖発作を起こした娘のためにパニック・ルームから母親が出たところから、今度は賊がパニック・ルームに娘を人質にして立てこもり、立場が逆転する構成もよいと思います。

この映画はフィンチャーの監督作品としては、(「エイリアン3」を除いて)最も低評価で、これだけがいまだブルーレイ化されていません。実は、まだフィンチャーの名前を知らなかったんですが、単純にフォスターのファンというだけで新作として発売されたDVDを購入していました。

これまでの作品と違って、サイコ・スリラー的な要素はなく、ハッピーエンドなのでストーリーの奥深さはあまりありません。また、解決の仕方も安易と言う意見も頷ける。

そう思うと物足りなさは否定できませんが、室内劇という制約の中で、高低をうまく利用して、立体的な映像を作っているところはさすがですし、クライム・サスペンスとしては一級の仕上がりになっていると思います。