2021年2月18日木曜日

ミクロの決死圏 (1966)

懐かしいこどもの時に見た、今となっては古典的なSF映画の一つ。

SFは、Science Fictionの略で、映画に限らず小説などの芸術の一分野であることは、今更言うまでもない。

こどもの時に、「鉄腕アトム」や「鉄人28号」のようなロボット物、「サイボーグ009」や「8マン」のような改造人間物などの漫画にワクワクしましたが、いずれもあえて分類すればSF作品。

科学的にある程度あり得そうだけど、現実には経験できないような空想の世界を見せてくれるのがSFですから、映画はその表現の場として最適かもしれません。歴史的には、SF映画は「月世界旅行(1902)」に始まり、「メトロポリス(1927)」で広く認知されました。

SF映画の歴史を語りつくすことはできないので、あくまでも自分の印象としてですけど、一般に広く受け入れられたのは60年代。ただし、多くはB級映画の域を超えたものではありません。

その中でもひときわ目立った存在の映画がこれ。未来物や宇宙物ではなく、その時代に想像できる最先端技術の話。「アンドロメダ・・・(1971、R・ワイズ監督)」とともに医学的SFの代表作です。

何しろ、ミクロ化した潜水艇に乗船した人間を患者の体内に注入して、外からの外科的手術ができない脳底領域の血種を取り除こうという、医者としてもわくわくするような話です。もっとも、現代の医学知識からすれば、突っ込みどころは満載ですが、60年代前半の医療技術ということで納得してみるしかありません。

監督は職人気質のリチャード・フライシャー。賞からはやや縁遠い人ですが、手堅く映画をまとめる力は十分にここでも発揮されています。


東西冷戦の真っ只中、両者は人をミクロ化する技術を開発しましたが、持続時間が短いことがネックになっていました。東側のベネッシュ博士は、ミクロ化持続時間を延長させることを可能にし西側に亡命してきます。しかし、その直後襲撃され、頭蓋内の底面に生じた血の塊(血種)により脳が圧迫され意識不明になってしまいました。

ミクロ化を実用化するミニチュア機動部隊の秘密基地に運ばれたベネシュの手術を行うのは脳外科の名医デュバル博士(アーサー・ケネディ)と助手のコーラ(ラクエル・ウェルチ)、部隊の医務部長のマイケルズ博士(ドナルド・ブレザンス)が補佐し、潜水艇を操縦するのがオーウェンス大佐(ウィリアム・レッドフィールド)、そして不測の事態に対処するためベネッシュを亡命させた諜報部員のグラント(スティーブン・ボイド)の5人が体内に入ります。

もう配役で、だいたい裏切り者は想像できてしまうわけですが、「ベン・ハー」で人気が出たボイドの顎の割れ具合は見事だし、当時のセクシー・シンボル、ラクエル・ウェルチにもドキドキさせられます。

頸動脈から入って、脳底に達し手術をしたら頚静脈から脱出する。血流を弱くするため、超低温で心拍数を可能な限り少なくする。血種を焼くのはレーザー。潜水艇は原子力なので、放射能を探査して現在位置を確認する。ただし、1時間を超えて少しずつ大きくなると免疫機能に認識されて異物として白血球の攻撃を受ける・・・などなど、確かに医学的に妥当(と錯覚しそう)な作戦が用意されています。

段階的にミクロ化して潜水艇を注射器に入れ行く過程は、丁寧に描かれています。こういうところを科学的に細かい事を言うのは野暮という物です。血管の中に入ると、数が少なすぎかと思いますが、いかにも赤血球、白血球、血小板らしきものが周囲を浮遊していてで、アカデミー美術賞および視覚効果賞を受賞しただけのことがあります。

航海が順調なのは最初だけで、動脈と静脈が繋がっている動静脈瘤のため、いきなり頚静脈に紛れ込む。コースを修正するため、57秒間だけ心臓を停止させ、その間に心臓を通過するという難題をクリアします。さらに酸素を補給するため肺の壁にホースを差し込んだりする。

ここで治療用レーザーの固定がはずれて壊れるという怪しい出来事も発生します。仕方が無いので無線機(モールス信号!)の部品(トランジスタ!!)を使って修理します。脳底に速く到達するため内耳を通過することになり、外では一切音を出しちゃいけないという笑うに笑えない事態。

何とか脳に達すると、神経細胞に光が走って電気的な信号が起こっている様子も面白い。タイムリミットあと数分というところで。いよいよ血種を焼いているとついに裏切り者が正体を現し、潜水艇を放棄。時間切れで大きくなり始めたため白血球の攻撃を受けながら、視神経を通って目から脱出することに成功しました。

原題は「Fantastic Voyage」で、まさに幻想的な航海を楽しめます。