トム・クルーズの出演した映画を探すと、必ずこの作品が引っ掛かります。邦訳すれば「吸血鬼にインタヴュー」というタイトルは、普通ホラー映画かと思ってしまう。ところが、これがけっこう裏切られる映画で、冒頭クルーズの名前が先に出ますが、主役はどっちかというとブラッド・ピット。この二人が共演しているというだけでも、かなりの驚きです。
二人はほぼ同世代ですが、クルーズが1981年から映画に登場し1986年の「トップ・ガン」で一躍大スターになったのに対して、ピットは1987年のデヴューで、名前が知られるようになるのは90年代になってから。そうなると、映画が「トム・クルーズの」という呼ばれ方をするのはしょうがない。
そして、確かに二人とも吸血鬼なんですが、ホラーじゃない。吸血鬼として不死の体になったことに対する苦しみみたいな、心情をえぐるような「ヒューマン・ドラマ」なんです。そもそも原作を書いたのがモンスター系小説が得意なアン・ライスで、映画化の脚本も手掛けています(ライス氏はつい先頃亡くなったことがニュースになりました)。
ライスは、当初二人の主役が決まると、自分のイメージとは違い過ぎると批判的な言葉を公言していました。しかし、実際の彼らの素晴らしい演技を見て、新聞に全面広告を掲載し謝罪しています。監督はニール・ジョーダンです。
現代。ライターのダニエル(クリスチャン・スレーター)は、ネタになりそうなルイと名乗る青年にインタヴューを始めます。200年以上前の18世紀初めのアメリカ、ニューオリンズ。若い農場主のルイ(ブラッド・ピット)は自暴自棄になっていて、一緒にヴァンパイアとして生きていく仲間を探していたレスタト(トム・クルーズ)の誘いに乗って血を吸わせてしまいます。
人を殺すことを厭わないレスタトに対して、人間だった時の「自尊心」を捨てきれないルイは動物の血でなんとかしのいでいました。しかし、疫病で母親を亡くした美しい少女クローディア(キルスティン・ダンスト)と出会い、ついにルイは人の血を吸ってしまうのです。人を襲ったルイを見てレスタトは喜び、クローディアをヴァンパイアに再生します。
年月がたち、クローディアは無邪気に人を殺してしまうためレスタトをイラつかせます。そして、いつまでたっても体が大人に成長しないことに不満を持ち、この責任はレスタトにあると考えるのでした。クローディアは、レスタトに力を失う死人の血を飲ませ、弱ったところで首をかき切って殺します。しかし、蘇ったレスタトがクローディアに迫ったためルイは火を放ち焼き殺すのでした。
ヨーロッパに逃れた二人は、パリでアーマンド(アントニオ・バンデラス)と名乗る、仲間を集めて劇場を主宰しているヴァンパイアに出会います。アーマンドは人間としての苦しみを忘れられないルイに興味を持ちますが、彼の仲間は仲間殺しの重罪を犯した二人を赦しません。クローディアは日光を浴びて灰になり、ルイは棺とともに生き埋めにされました。
アーマンドに救い出されたルイは、クローディアの復讐をし、アメリカに戻ります。そして、時代は過ぎ、映画が発明されルイは久しぶりに太陽を見ることができました。映画館の帰り道で、死臭を感じたルイは荒れ果てた墓場の奥に入っていくと、そこには老いて醜悪な姿となったレスタトがいました。
トム・クルーズは、今でこそアクション俳優という肩書で呼ばれますが、1996年に「ミッション・インポッシブル」に出演するまでは、かなり文芸路線の作品が多い。ポール・ニューマンやダスティン・ホフマンのような大先輩と共演し、キューブリック監督に認められ、まさに演技派の名優となるべく着々とキャリアを重ねていました。この作品もその一つと言えますが、見事に美しく青白い怖さをたたえたヴァンパイアを好演しています。
ブラッド・ピットも、人であることを忘れられない異色のヴァンパイアを熱演し、映画全体の「愛」、「憎悪」、「執着」と言った人間臭さを見事に画面の中に結晶化させました。子役だったキルスティン・ダンストも、「スパイダーマン・シリーズ」をはじめ、今では人気女優の一人になっています。
全体を覆う耽美的な雰囲気は、同性愛、少女愛といった(当時としては)反モラル的な要素を取り込んでいます。この映画の欠点をあげるならば、じわじわと進行する比較的抑揚のないこの雰囲気でしょうか。2世紀に渡る物語のほとんどが18世紀初めに時間がさかれていて、当然、夜か暗い室内の映像ばかりですから、盛り上がり感が出にくくて当たり前。そんな中で、わざわざインタヴューしなくてもいいんじゃないかと思ってしまいますが、インタヴューがあるからこそラストのオチが生きてくるところは大事なポイントになっています。
なお、映画の中ではドラキュラの話は「単なるフィクション」であり、ニンニク、十字架、心臓に杭などのヴァンパイアの弱点は全部嘘。ただし、生き続けるために生血が必要であること、寝るのは棺の中、そして日光を浴びると死ぬのは本当としています。