1960~70年代にアメリカのNASA(航空宇宙局)が実施したアポロ計画は、リアルタイムに少年だった自分にたくさんの夢の実現と困難さを見させてくれました。大人になっても、アポロ計画にまつわる話は、良い事も悪い事でも気になり続けています。
最近は、中国が無人探査機を月に送り込みましたが、いまだに人類が地球以外の星に降り立ったのは半世紀前のアポロ計画だけですし、 下手なフィクションよりリアルの中に本当のドラマが存在することを証明したイベントだったと思います。
この映画は、アポロ11号で初めて月に降り立ったニール・アームストロング船長の伝記を原作として、「セッション(2014)」、「ララ・ランド(2016)」で注目される若手のデイミアン・チャゼルが監督し、製作総指揮にはスティーブン・スピルバーグも加わっています。
ケネディ大統領は、1961年5月25日に「10年以内にアメリカは人間を月に送り、無事帰還させる」と述べたことに端を発し、マーキュリー計画に続くジェミニ計画が始動します。テスト・パイロットのニール・アームストロング(ライアン・ゴスリング)は、当初はチャック・イェーガーから適性を心配されていました。
しかし、脳腫瘍を患った娘の死を乗り越えて、ジェミニ計画のパイロットに応募し合格。苦痛を伴う多くの訓練と仲間の死を経て、ニールは1966年にジェミニ8号に乗船し、初の別機体との宇宙空間でのドッキングを成功させます。しかし、その直後機体が不安定になり、緊急着水を余儀なくされました。
家庭では良き夫であり父であるニールでしたが、妻のジャネット(クレア・フォイ)は、絶えず夫の仕事に対する不安を抱え、それは他の宇宙飛行士の妻たちも同じ。そんな中、大型化しいよいよ月を目標に定めたアポロ計画初の有人飛行となる1号が、発射待機中に火災を起こし3人の仲間で焼死する事故が発生しました。巨額な税金が使われていることに対して、世間の厳しい目も日増しに増えていきました。
1969年、ニールはついに月面着陸を目指す11号の船長に指名されます。ジャネットは出発の準備をするニールに、「こどもたちにちゃんと話して。これが最後なのかもしれないのだから」と詰め寄ります。こどもたちと抱き合い、そして固く握手を交わしたニールは7月16日に月に向けて出発するのでした。
結末はすでに世界中が知っていることですが、それでも、少なからず感動を覚えるのは、贔屓目で見ているところがあるかもしれません。しかし、この映画の優れたところは、ニール・アームストロングという一人の人物に焦点を当てて、死の可能性もある任務に向かう姿を、家族の心情と共に描いたところにあります。
そういう意味では、チャック・イェーガーを中心に音速を超えるところから、マーキュリー計画までを描いた「ライト・スタッフ(1983)」の続編的な位置づけと言えなくなくもない。月に到着し、着陸、そして帰還するという任務そのものよりも、宇宙を目指す人間のドラマだけで映画として成立させています。
それは映像が、ドキュメンタリー的な客観的なシーンと、主観的にカメラを移動させるシーンとを混在させることで、ノン・フィクションですがドラマ性を強調することにつながっています。また、CGの使用は最低限らしく、大多数の撮影が実物大の模型などを使用していることも、緊張感を引き出している要素になっています。
ニールが、幼くして無くしたわが子の名を刻んだブレスレットを月のクレーターに投げるシーンは、おそらくフィクションです。しかし、おそらく月に行こうと決心したのは娘の死と関連していたでしょうし、少なくとも月に足を踏み下ろしたことを心の中で娘に報告したことだろうと思います。