AQUAPAZZAの日高良美シェフのYouTubeから学べる、パスタだけに限らず、イタリアン全般に通じる最大のポイントは、おそらく「Simple is best」ということ。
シンプルとは簡単ということもありますが、一番大切なのは素材の味を引き出すために必要最小限のものしか使わない。もちろんプロの料理人は、表には見えない隠れた下準備をたくさんしているし、少ない工程の最大の効果を生み出す経験値を持っているわけで、素人が真似をしても同じになるわけではありません。
それでも真似てみることは学習の基本であり、新たな発見が出てくるもの。今まで適当にやっていたことや、調味料まみれの味付けを突き抜けた、我ながら感動する味に出会うことができることが楽しくなってくるというものです。
パスタ pasta は、基本的にはデュラム小麦のセモリナ粉を水を加えて練った物のことで、まさにペースト paste です。これをいろいろな形に成形して、好みのソースと混ぜ合わせて素材の味を染み込ませて食べるのが本場イタリアの流儀。
日本流の「スパゲッティ」はパスタを使った独特のレシピであり、イタリア人からすればありえない食べ方のようです。代表的なるメニューであるナポリタンは、茹でおきした柔らかい麺を炒めてケチャップを絡ませたものだし、ミートソースもパスタとソースが分離した状態で完成しています。
言ってみれば、日本蕎麦を外国では炒めてジェノベーゼソースを絡めてフォークで食べているような感じ。世界中で認知度が高まった寿司だって、日本人からすると、あれっ? というようなものがあったりしますが、それも一つの食文化でありそれはそれでOKということでしょう。
さて、自分たちが食べるものとして多いのパスタは麺状になったロング・パスタなんですが、お湯を沸かして沸騰してきたらソースを作り始め、茹であがったパスタをできたソースに投入して仕上げるというのが基本。つまり10分程度で出来上がるもの。
当然、茹で方は重要で、一般に言う「アルデンテ、al dente (歯ごたえがある)」の固さにすることが必須。もちろん、その程度には個人の好みの違いはありますが、買ってきたパスタの指定された時間まで茹でていると、予熱によって食べる時にはふにゃふにゃになっているもの。
美味しく食べるために大事なのが茹でる時に使う塩。レトルトのパスタソースを使うのであれば、しっかり味が付いているのでパスタに塩味がつくと味が濃いと感じるかもしれませんが、ソースとパスタは分離した状態で美味しさは半減します。
茹で方の基本は、パスタの10倍のお湯で、パスタの1/10の塩を入れること。一人前100gのパスタに対してお湯は1リットル、塩は10gです。塩によって小麦粉のグルテンがしまりアルデンテになりやすく、下味がつくことでソースの塩気を減らして素材の風味を引き立てることができます。
そして、日高シェフの教えは、指定された時間より2分程度早くお湯から出すというもの。まだ固いうちにソースに入れ、場合によっては水(茹で汁)を加えてパスタにソースを吸わせるようにアルデンテに仕上げるということ。
今まで、茹でる時に塩なんかいらないよとか、茹でたらレトルトソースと和えるだけで「うまい」と思っていた自分でしたが、これだけのことを実践しただけでまるでお店の味のように激変したことに感動します(単なる勘違いかもしれませんけど)。
日高シェフのYouTubeサブチャンネルでは、銀座で店を持つ奥田政行シェフの「ゆで論」が紹介されていて、茹でる時の通常1%の塩分濃度を2.7%にするというもの。理屈に筋が通っていてなるほどと思わせるもので感心しますが、いかんせん茹でる鍋と塩分を洗う鍋、そしてソースを作るために火口が3つ必要なので家庭で実践するのは難しいと感じます。