1968年4月4日、公民権運動をーの陣頭に立っていたマーティン・ルーサー・キングJrが暗殺されました。さらに、6月6日には公民権運動に理解を示しアメリカのベトナムへの介入に反対していたロバート・F・ケネディ上院議員(故ジョン・F・ケネディ大統領の実弟)も暗殺されたのです。この頃、アメリカの大都市では毎日のように大規模なデモや暴動が発生して、社会は混乱していました。
若者たちの間には、自由を求めてヒッピー文化が広がり、薬物により現実から逃避することが常態化していたと言っても良いと思います。古い保守的な音楽は聴かれなくなり、ポピュラー音楽の世界ではサイケデリック調の物が人気を博し、ジャズも音楽のルールを排除したフリー・ジャズが人気となります。
1962年に登場して以来、ボブ・ディランは体制批判の先頭に立たされてきました。時代に流されてきただけで、本人が望んだことではなかったのですが、世間のディランに対する注目は続いていました。しかし、ディランは現実世界から一歩ひいたところで、相変わらずマイペースな音楽活動を続けていたのです。
本作では、前作で入り込んだカントリー・ミュージックの世界に最も深くのめり込んだアルバムと位置付けられています。何しろ最初の1曲目が、カントリー・ミュージック界の大御所、ジョニー・キャッシュとの共演ですから、インパクトは絶大です。
ディランがキャッシュと初めて対面したのは1965年のことで、キャッシュはそれ以来ディランに対しては好印象をもっていたようです。ディランは再びナッシュビルを訪れ、カントリー・ミュージックの懐深く入り込みます。1969年2月13日からにセッションを開始し、18日までで収録を完成させました(実際は21日までらしい)。その最終日にスタジオにやってきたジョニー・キャッシュとは、丸一日かけて別テイクを含めて38曲も収録をしています。
ただ、結論として二人がデュエットしても新しいことは何も生まれなかったのです。その結果がアルバムに収録されたのは「Girl from the North Country (初出は"The Freewheelin'")」の1曲のみということで、4月9日のアルバム発売後の5月1日にキャッシュの冠番組にディランが出演しのが最後の共演になりました。
アルバムは全11曲で30分に満たない、短い曲ばかりなので聞きやすい。ですが、その反面、物足りなさも残ります。それにジャケット写真の、とっても丸くなって微笑みかけるディランという構図も好き嫌いが分かれるところ。
何よりも、全体を通してディランの声に一番驚きます。初っ端から、あれ? この声誰? ジョニー・キャッシュってこんな声だっけとなります。ところが後から出てる歌声は、まさしくキャッシュそのもの。ということは最初のがディラン!? と耳を疑いたくなること必至です。
クルーナー唱法とは、B・クロスビーやF・シナトラで有名になったもので、声を張り上げずに耳元に直接響かせるような歌い方で、これまでガラガラ、しゃがれ声だったディランがこの歌い方をしてつんつるてんになっています。
カントリーに寄せたというか、一時的に禁煙していたからとか言われていますが、これを良しとするならこのアルバムはOKです。でも、とても違和感が強いのでこれも評価を大きく分けることになりそうです。実際、エルビス・プレスリーになりたがっているという批判も起こっています。
一番の収穫は「Lay Lady Lay」です。けっこうストレートな求愛ソングで、「二人の間に朝までずっといて」とお願いし続ける内容ですが、ロック版になってライブの重要なレパートリーになりました。
これらのセッションでの多くの未発表テイクは、その後いろいろな形で分散されて公表されていますが、特にジョニー・キャッシュとの共演はまとめられて「The Bootleg Series Vol.15 Travelin' Thru」で全貌を聴くことができます。
Girl from the North Country*
Nashville Skyline Rag
To Be Alone with You
I Threw It All Away
Peggy Day
Lay Lady Lay
One More Night
Tell Me That It Isn't True
Country Pie
Tonight I'll Be Staying Here with You
Bob Dylan (vo, g, harmonica)
Norman Blake (g, Dobro), Fred Carter Jr. (g)
Charlie McCoy (g, harmonica), Pete Drake (pedal steel guitar)
Charlie Daniels (b, g), Bob Wilson (org, p)
Kenneth A. Buttrey (ds, perc)
* Johnny Cash (vo, g)
Bob Wootton (ele.g), Marshall Grant (b), W. S. Holland (ds)
February 13 ~ 18, 1969, Nashville
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February 13 ~ 18, 1969, Nashville
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