90年代以後、ボブ・ディランの生活にはしだいに「Never Ending Tour」が定着し、ステージで歌うことがメインで、合間にアルバム制作を含む他の仕事をこなすことが普通になってきました。デヴュー30年を過ぎても、昨日の続きが明日というスタンスには変わりがありません。
1993年も2月の間はヨーロッパ、4月中は北米、そして6月から7月にかけて再びヨーロッパ、そして8月から10月にはカルロス・サンタナとのジョイント・ツアーという具合で、ほぼ1年中ライブ活動をしています。空いている3月は、休養とニュー・アルバムの準備、そして5月にレコーディングを行いました。11月には、ニューヨークのサパ―・クラブで、通常ツアーとは別枠でアコースティック・ライブを開催し、12月から翌年1月の間はは休養および2月からのツアー再開の準備という具合です。
5月に収録されたニュー・アルバムは、今回もマリブの自宅スタジオで録音され、前作「Good as I Been to You」に続いてディラン独りの弾き語りによるオール・カバー曲という内容はファンや評論家を大変驚かせました。
前作は、あらためてディランのギター演奏力の高さが際立つピッキングの演奏が目立ち、内容も古くからのトラディショナルや比較的知られているカバー曲が中心となった伝統的なフォーク・ソング・アルバムとして完成度の高いものでした。
今作は、より荒々しい力強いギター演奏をしていて、歌い方にもより感情が込められています。多少のギターのストローク・ミスはものともせず、より歌唱そのものの良し悪しに重点を置いているようです。内容は古い南部のブルースがメインになっていて、死・孤独・無常といったダークな雰囲気が色濃く出ているところが決定的に違うところです。
10月に発売されると、ブルースが本来内包している悲しみ、苦しみなどの感情を見事に表現していると、オリジナル曲が含まれていないにもかかわらず高い評価を得ています。また、前作でトラディショナルやカバー曲の出所などについて不明瞭と批判されたことを受けて、今回は自らライナーノーツを書き起こして、比較的丁寧に説明を行ったところも評価されました。
その結果、第37回グラミー賞(1994年度対象)で「Best Traditional Folk Album」を受賞しています。この2枚の弾き語りアルバムは、一部のファンの失望を招いたことは否定できませんが、ディランがルーツ音楽の中に新たな自分の可能性を発見し、本当の意味でスランプから抜け出るために大きな意味があったと言われています。
実際、この2枚のアルバムを聴くと、無駄をそぎ落としたディラン独りの演奏であるがゆえに、かえって本当に本人がやりたい音楽なんだなと思えてきます。自作曲ではなくても、ディラン節が完全に戻って、歌うことへの自信が再びほとばしっているように聞こえます。
World Gone Wrong
Love Henry
Ragged & Dirty
Blood in My Eyes
Broke Down Engine
Delia
Stack a Lee
Two Soldiers
Jack-A-Roe
Lone Pilgrim
May 1993, Malib
☆☆☆☆☆☆☆・・・
