2021年2月20日土曜日

ベンジャミン・バトン 数奇な人生 (2008)

デヴィド・フィンチャーにとっては、初めてのアクション、サスペンスの無い映画。ヒューマン・ドラマ・・・なんですが、設定そのものがファンタジー。

何しろ、生まれた時が80才台の老人。年齢と伴に若返っていくという何とも理解不能な不思議な現象の運命の元に生まれたベンジャミン・バトンを、フィッチゃー監督と3回目のタッグを組むブラッド・ピットが熱演しています。

原作の短編小説を1922年に書いたのは、映画では「華麗なるギャツビー」で有名なF・スコット・フィッツジェラルドです。映画化の話は80年代から出ていましたが、何しろ主人公が若返っていくという主軸となるプロットの映像化をどうするかで悩みに悩んで、企画は二転三転してきました。

アカデミー賞は、主要13部門にノミネートされ・・・ましたが、受賞は美術賞と視覚効果賞だけ。フィンチャー作として全体的な評価としては、必ずしも上位にはランクしているとは云い難い。

その理由は・・・わかる。確かに、だんだん若返っていくということを除くと、一人の男の人生を静かになぞっていくので。大きな事件があるわけではなく、あまり盛り上がらない・・・のに、長い。2時間半越えはちょっと辛い。

一人の人生を生から死まで追いかけるので、大河ドラマみたいなもので長くなるのはしょうがないとは思いますが、なんとかもう少しエピソードを絞り込めなかったものかという思いはあります。時間に逆行する話のプロローグとして、冒頭の時計職人の話が出てくるのですが、これなどは本編とはほぼ無関係で必要性は感じにくい。

物語はハリケーンが近づく病院の中で、命を終わろうとしている老婆、デイジーが娘に彼の父親、ベンジャミン・バトンの数奇な人生を語る形で進行します。ハリケーンが近づくことは、これも直接的な関係が良くわからない。

この話のテーマは「永遠」ということらしい。年老いて生まれた男がどんどん若返って、こどもだったデイジーとついに結ばれる。その時だけが二人の時間軸が交差する。しかし。そこを過ぎると、デイジーはどんどん年老いていき、ベンジャミンはこどもになっていくのです。

技術的なことは、どうやってこの現象を映像化するのかという点に尽きます。こども時代のベンジャミンは、複数の子役が演じ、CGによりブラッド・ピットの外見を合成しているようです。一方、デイジーを演じるケイト・ブランシェットは、老けメークで年を取っていきます。これらの変化はそれなりに見事で、あまり違和感はありません。

ただ、どうやっても年々若返っていくという設定そのものが受け入れにくい。コメディみたいなものなら、笑ってそんなこともあるよくらいですませられますが、シリアスなドラマとしては、現実味が無さすぎる。

とは言っても、フィンチャーだから、何とかまとめ上げたという見方もできますし、映画として挑戦するだけの価値があるストーリーだろうとは思います。少なくとも、異様な人生だったベンジャミンを否定せず肯定的に描き切ったことには敬意を払わずにはいられません。

生物学的な年齢と、精神年齢とは必ずしも一致しないことは普通にあることで、何となく合わせようとする気持ちが普通です。しかし、どうやっても合わせられない時に、それを受け入れていく大きな意思、あるいは受け入れられない時の決断といったものを感じる映画なのかなと思いました。