長いこと喉頭癌で闘病していた五代目立川談志が、21日に亡くなった。落語家としては75歳は、まだまだこれから円熟の話術を誇れる年だけに惜しまれます。
談志というと、五代目小さんに入門し、柳家の正当な話芸を伝承するかもしれない人材・・・だったわけです。昭和30年代の折からのテレビ・ブームにのっかり、その毒舌ぶりも相まって、落語家と言うよりも今で言う「タレント」に近い活躍をしました。
自分もこどもの頃は、談志はかつて落語をやっていたテレビの司会者という認識だったと思います。さらに政治家になって、沖縄でしくじってと、本業よりもそういう面ばかりが目立っていました。
でも、大学浪人している時に、落語にずいぶんとはまった時期があったのですが、そこで談志の落語をはじめて耳にするようになったのです。
確かに三遊亭の生真面目な噺でもないし、柳家の正当な笑いをもたらす噺でもなく、なんとも言えない「談志ワールド」があって、これはこれですごい噺家なんだと思うようになりました。
時代考証とか、些細な点は気にかけず、噺の中の一番ポイントをプラックユーモア的に抽出するところが面白く、他の落語家がただのギャグで終わるような話でも、思わずニヤリとするような斬新な演出で聴かせてくれたのです。
談志が書いた本はけっこうありますが、「現代落語家論」というのが面白い。名だたる落語家についての評論集なのですが、いいところと悪いところをはっきりと指摘していて大変参考になりました。さらに落語を聞くときの楽しみが増えたのです。今でも3冊くらいとってある。
噺のまくらで語った「平等」ということについての話は、耳に残っていて、言ってみれば自分にとって「座右の銘」の一つになっているほどです。談志に感謝を込めて、多少聞き間違いがあるかもしれませんが、そのまくらを書いてみます。
うー、平等、ってんで平等が大事だと。どこかの中ぴ連とかいう団体が騒いでる。
じゃあ、オリンピックだって、男女一緒に駆け出せ。一緒に槍を投げればいい。
そんなわけにいかないだろ。男と女なんて違うんだから。
平等ってえのはね、互いの違いを認めることなんだよ。
当時、榎本某という女性が中ぴ連という女性解放を訴えて、派手な活動をしていた頃のことです。それから30年以上経っていますが、最近も格差社会と言われ、格差の是正を求める声が世界中で上がっている。談志だったら、「互いの違いを認めた上で格差を考えないとダメだよ」と思っていたでしょうか。
何にしても、「正当」な落語家ではなかったかもしれませんが、時代をしっかりと取り込む「本物」の落語家であったことは間違いありません。
合掌