2011年11月1日火曜日

無駄な抵抗

ノックの音がした。

・・・にもかかわらず、こちらが返事をする暇もなく、いきなり男がオフィースに入ってきた。入ってきたというより、押し入ってきたという表現の方が正しいかもしれない。

「おい、金庫を開けて中の金を出すんだ」
男はそう言うと、右手に持っていたナイフをゆらゆらとみせびらかした。

そこで、私はあわてない。ゆっくりと噛みしめるように男に向かって話をした。
「まぁ、ちょっと待ちたまえ。君は今、この部屋に入ってくるのにノックをしただろう。ノックをするということは、相手の入室の許可を得るための行動理論であって、もしもそうでないとしたら部屋の中に誰かが存在しているかの確認のためのものである。君はそのいずれにも合致しない行動を起こしたことによって、すでに心理学的破綻を呈しているわけです。君がこの現状で、少なくとも一度部屋から出ることが唯一の適正解決をもたらすということを理解してもらいたい・・・」

「つべこべ言っているとブッ殺すぞ!! さっさと金を出せ!!」

結局、確固たる信念を持って行動する相手に対しては、自らの安全を最優先に考える以上従うしかないということを身を持って証明しただけだった。