クラシックの室内楽というジャンルは、音楽を各家庭で楽しむという発想が根底にあるわけです。17世紀のバロック音楽以降、初めは宗教的儀式を盛り上げるためと貴族の娯楽的側面として急速に音楽は進歩・浸透していきます。
今のようにCDとかネットとかあるわけもなく、音楽を楽しむためにはどこかに出向くか、あるいは自分で演奏するしかありません。自分で楽しむためには、家にオーケストラというわけにはいきません。
となると、手頃な方法としてはピアノを中心とした数人の編成の室内楽に人気が集まると言うのは、まぁ自然の成り行きと言うことでしょう。ピアノ独奏、ビアノ・デュオ、ピアノとヴァイオリン、ピアノとチェロ、ピアノとクラリネット・・・
たぶん、家族を中心として数人のアンサンブルは、大変に楽しく幸福な一時を当時の人々に与えたのでしょう。ピアノとヴァイオリンとチェロという、和音と高音と低音といういわゆるピアノ三重奏という形式もバランスのとれた編成といえます。
天才モーツァルトは、おびただしい数の作曲をしたわけですが、当然ピアノ三重奏も6曲あります。しかし、この数は多くはないと言えるでしょう。ピアノソナタは21曲、交響曲は41番まであり、弦楽四重奏は第23番などから考えると、あまり積極的とはいえません。
おそらく、モーツァルトのパトロン、つまり作曲を依頼する側の問題なのでしょぅか。そこのあたりは、音楽学者ではない自分にはよくわかりませんが、三重奏というある意味「最小のオーケストラ」といえる編成が、かえって楽曲を際立たせるのに難しさがあったのかもしれません。
最近では、ヴァイオリンの女王ムターの盤が好演で光っていましたが、録音されたのは半分。全曲録音は、ほとんどが常設トリオのものが中心となります。
どれをとっても一定水準以上の演奏だと思いますが、やはりモーツァルト自信が力を入れなかったからなのか、それほど面白いものはありません。となると、録音の良いもの、あまり癖のない気楽に聴けるものが無難な選択ということになります。
今回はベテランのビュー・アーツ・トリオのものをオススメしておきます。もちろんお気に入りのHaydn Trio EisenstadtやFlorestan Trioのものもいいのですが、モーツァルトの三重奏はどれでもいい・・・というとファンから怒られてしまうかもしれませんね。