以前は、いくら作曲者の耳に本当に聞こえていた音に近づくということは、それほど重要とは思っていませんでした。もちろん、今でもそこにこだわるつもりはありません。
わざわざ響きの少ない当時の楽器で演奏するよりも、現代的に完成された楽器の音色で十分に楽しいと思っていたわけですが、実際にバッハで体験したのは、モダン楽器を使って厚化粧をしたバッハよりも、古楽演奏のバッハの方が、聴いていて心地よいということでした。
確かに現代の楽器の方が音量があって響きもいいのですが、当然バッハはそういう楽器で演奏されることは想定していない。その時の楽器を最大限に生かすことを考えて、音符を書いていたはずです。
ですから、現代楽器による演奏と同じに、古楽器による演奏にも耳を傾けることはクラシック・マニアとしては避けては通れない道だということに気がつきました。
そこで、ピアノです。
今、普通にピアノというと一番有名なのはスタインウェイ社のもの。スタインウェイが創立したのは1853年です。同じ年にベヒシュタインも誕生しています。ベーゼンドルファーはもう少し早くて1828年。
モダンピアノの黎明期を支えたのがショパンとリストですが、リストは長命でしたが、ショパンは若死にしていて1949年には亡くなっている。
つまり、自分が一番好きな時代の作曲家たちは、いずれもモダンピアノ以前に活躍した人たちだということです。であれば、彼らが使用していた楽器は何か知りたくなる。
鍵盤楽器として最初に世間に広まったのは、バロック期のチェンバロ(クラブサン、ハープシコード)です。これは弦をひっかくことで音を出しますが、音量は小さいし、音に強弱をつけることができません。
ベートーヴェンは、32曲あるソナタで、新しいフォルテピアノが登場するたびに、積極的に使用して音域を広げたり、演奏法を改良したりしていくことになります。
モダンピアノの弾き方を、そのままフォルテピアノでやろうとしても、まともな音はしないそうです。演奏の仕方は別物で、下手に弾くとコンコンと木琴でも叩いているかのような、響きのない耳につく音になってしまいます。
シューベルトのピアノ・ソナタにはまってしまうと、ベートーヴェンに比べて情報量がずいぶんと少なくなってしまうことが残念。散発的に弾かれることはあっても、何しろヴィルヘルム・ケンブによってまとまった録音を初めて行ったのが、60年代後半というのが驚きです。
問題はトゥルーデリーズ・レオンハルト。レオンハルトと聞くと、最初に思い出すのはグスタフ・レオンハルトで、世界中のチェンバロ奏者の師匠みたいな存在ですが、トゥルーデリーズ・レオンハルトは実妹さん。
2000年以降にも、一部をあらたに再録音しているのですが、これもレコード会社がばらけていて、しかも体系的になっているようでなっていないので、どれを買えばいいのかよくわからない。困ったものですが、「幻の名盤」と言われると、何とか手に入れたくなるのがマニアというもの。
まぁ、地道に世界中のAmazonをチェックするしかありませんね。