バッハのカンタータ・シリーズが一段落して、最近は音楽は何を聴いているのかというと・・・まぁ、あまり変わり映えしないんですけど、また元に戻ってピアノ独奏曲なんぞを聴いていることが多い。
ペートーヴェンのソナタから始まったみたいなところだったんですが、最終的にピタッと来たのがシューベルト。
天性のメロディ・メーカー、シューベルトですから、随所に親しみやすいメロディが入ってきて、とても馴染みやすい。ところが、ピアノ・ソナタについては、シューベルトさんも相当悩みに悩んだのか、構成についてはかなり難しい。
なんか、とにかく長くしようとして苦しんでいるみたいという評判もあったりしますが、聴き慣れるまでは、なんか同じことの繰り返しばかりで確かに飽きてしまいそう。
でも一度抜け出ると、もう豊饒な世界が目の前に広がり、もう病みつきになってしまいます。特に、随所に出てくる独特の間は、もう「来たぁ~」っていう感じなんですが、逆に自分の間の感覚と合わない演奏では、もう買って損した状態になったりもします。
とにかく、一番よく聞くのは、我が日本が世界に誇る内田光子さんの演奏。ただし、相当気持ちの入った重みのある演奏なので、気楽に聴くのは難しい。真剣に聴けば聴くほど疲れるんですが、それもまた心地良い疲労感みたいなところ。
まとまった演奏をCDに残しているものはたいがい持っていると思うのですが、1960年代半ばのケンプの全集が先駆けで、それに続く幻の演奏と呼ばれているのがシュヒターのCD12枚の全集です。
amazonでずっと探していましたが、中古で数万円の値がついていて、ちょっと高くて手を出す気になれない。ところが、久しぶりに何気にamazon.co.ukを見ていたら・・・!! !! 何と何かの間違いかという値段で出ているじゃありませんか。
即、バスケットに入れてしまいました。送料込みで約1万円です。これはもう、ここで買わなければもう出会えない価格です。ついに手に入ったわけで、さっそく聴きだしました。
70年代半ばの録音らしいのですが、ライナー・ノートには、どこにも詳しいデータが書いていない。もちろん元々はアナログ録音ですが、音質はまったく問題ない。むしろ、温かみのあるピアノの音は抜群にいい。
そして、演奏は…とても、落ち着いた真面目な演奏という感じ。全体的にゆったりとしたスピードですが、一つ一つの音を丁寧に出しているところが、とても好感が持てます。
一番のお気に入りは最後のソナタ、D960なんですが、新しく聴くときはまずはこれを聴いて、自分に合うのかの秤にしています。
出だし、やや音は大きすぎる気がしないでもないのですが、この曲に関してはやや早めで、通常20分くらいの第一楽章がシュヒターは15分。でも、間の取り方がよくて、その速さがまったく自然です。
収録曲の多さでは後発のダルベルトの全集に負けてはいますが、特にあまり聴くことが少ない初期の曲などでの演奏水準はかなりものと思います。
これが長らく廃盤で、入手困難になっているというのは不思議です。シューベルトのファンなら、絶対に聴くだけの価値がある。本気で聴くのは内田さんというのは変わらないのですが、もう少し軽めにシューベルトの混乱したソナタを俯瞰するには最適なセットだと思います。