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2018年2月9日金曜日

万葉集 (4) 言霊の力


事霊 八十衢 夕占問 占正謂 妹相依

言霊の 八十(やそ)の巷(ちまた)に 夕占(ゆうけ)問う
 占(うら)まさにのる 妹(いも)は逢い寄らむ

言霊のはたらくあちこちに通じる辻で、霊力の強い逢魔が時の夕刻に占いをしたら、その答えはまさに思った通りで、あの子はきっと私に気があるとなった

この歌の作者は柿本人麻呂です。出だしの言霊について考えてみましょう。

万葉集では、その時代を生きた人々の心情が浮き出てくるのですが、その基本には「たま」があり、時によって「玉」、「珠」、「霊」、「魂」となって登場してきます。

今でも、特別な根拠があるわけでもなく、魂の存在を何となく信じている日本人は少なくありません。でも、魂は何かと聞かれても、はっきり説明はできない。人に限らず、自然現象も含めて万物に内在している何かであって、出たり入ったり、別のものにくっついたりして自由自在な存在で、これがあることが力を持つことになると考えています。

例えば、天之日矛伝説では、天之日矛が朝鮮から渡来し神功皇后の祖先となった説明がなされますが、そもそも日本に来た理由が「玉」です。天之日矛の奥さんは、太陽がさして生まれた玉が女性に変身した姿。つまり日本という国の分身としての「たま」だったりするわけです。

玉を集めたりして「たま」を身に着け、より自らの力を増やすのは「魂振り」、離れてしまいそうな「たま」を落ち着かせるのは「魂鎮め」、名を呼んだりして離れた「たま」を元に戻すのは「魂呼ばい」と呼ばれます。

万葉の時代、つまり古代の日本では口から出る「言(こと)」と物を指す「事(こと)」は区別されず、言の端が「言葉」で口から出ると現実の事になると信じられていました。それが、言葉そのものにも「たま」があり、霊力があるという言霊信仰です。

ですから、女性は簡単に名を明かすようなことはしません。名を知られるということは、相手に「たま」を取られて言いなりになるということ。名を尋ねるのは求婚であり、名を教えるのは承諾だそうです。

万葉集は、ちょうど記憶からの口承に頼っていた言葉を、文字に書いて記録に残す転換期に作られました。ただし、言葉が持っていた言霊を文字に書き文章にすることで、逆に「たま」の力はむしろ弱まっていくことになったのかもしれません。