年末年始診療 12月29日~1月5日は休診します
年内は12月28日(土)まで、年始は1月6日(月)から通常診療を行います
2018年2月18日日曜日
King of Ice
平昌冬季オリンピックが開幕して1週間。前半最後の華、男子フィギュアスケートで、日本の羽生結弦選手が金メダルを獲得し、ソチでの前大会に続いて2連覇を達成しました。
もう、散々言われていることですから、あらためてここに書くほどのことはありませんが、ケガのために出場すら危ぶまれ、ぶっつけ本番で臨んだ大会での結果ですから、驚異としか言えません。
心より祝福します。日本人として誇りに思えます。
整形外科医として、別の視点から羽生選手のケガについて考えてみます。
メディアで報道されているケガは「足首の靭帯損傷」というもの。足首の靭帯損傷というのは、軽い言葉で言えば「捻挫」のこと。一番多いのは足を内側に捻ってしまうことで、外くるぶしから前下方向に向かう靭帯を伸ばして傷めます。
靭帯を少し伸ばしただけというものだけではなく、靭帯が断裂するもの、あるいは靭帯付着部の骨の剥離骨折を伴うものなど、いろいろなパターンがある。
ところが、足首は比較的安定度が高い関節なので、痛みが我慢できるなら平地を歩く分には何とかなることが多いので、けっこう無理してしまう人が多いケガです。
捻挫でも、ギプスを巻いて固定し、松葉杖で体重をかけないようにして3週間我慢してもらえるなら、重症の捻挫でも歩行についてはほぼ問題ないくらいに回復します。
しかし、スケートではジャンプを中心に足にかける力は相当強いはずですから、それに耐える程度に回復するにはさらに数週間は必要だろうと思います。
ケガをした時の映像を見ると、ジャンプの後、着氷の角度がややつきすぎたのか、エッジが引っかかって滑らなかったのか、ケガをした右足を捻っていることは間違いない。
スケートシューズは足首を保護できるようになっているはずですが、より大きく高くジャンプするために、足首の自由度を損ねないようなシューズを使っているのかもしれません。もしもそうなら、高得点とリスクは表裏一体ということです。
2か月間まったくスケーティングしなかったそうですから、靭帯損傷ではなく、外くるぶしの骨折だったのかもしれません。
スケート選手にとって、長期間氷に立たないということは、おそらく最も苦痛なことでしょうけど、完全に治すにはどうしても時間が必要です。
ですから、これは最良の選択で、ちょっとよくなったからと早くにスケートを再開していたら、いつまでも痛みが続いて結果はついてこなかっただろうと思います。
実際、スポーツのケガで、目の前のやりたいことを我慢できずに無理して痛みを長引かせるお子さんは多い。また、それを頑張りと評価してむしろ無理させてしまう親御さんもいます。
レクリエーション、あるいはアマチュアのレベルなら、それもいいかもしれません。しかし、それなりの結果をきちんと出したいと本気で思っているなら、まずケガをしっかり治すということを優先すべきということを、今回の羽生選手のケースでも見えて来たと思います。
羽生選手が登場して以降、男子フィギュアは300点以上が当たり前になり、4回転ジャンプは当たり前になりました。その流れはたかだか数年間のことです。
羽生選手は、フィギュアスケートの残っていた伸びしろを発見し解放した先駆者の一人であり、そしてそれを実践して進化させた唯一のスケーターと言えます。
技術的な面だけでなく、精神的なことも含めて、まさに"King of Ice"の称号に相応しい存在になったと日本人だけでなく、世界中が認めた今回の大会でした。