2019年7月18日木曜日

Yuja Wang / The Berlin Recital (2018)

若手女性ピアニストの中では、実力・人気ともにトップクラスと称されている一人がユジャ・ワン。彼女の最新作は、目下のところ昨年6月のベルリンフィル・ホールで行われたリサイタルのライブ。

ユジャのレパートリーは、YouTubeなどでも多数見て聴くことができます。有名なピアノ協奏曲はいろいろと演奏していますが、CD化されているものとなると、デヴュー盤こそ王道のショパン、リストでしたが、以後は後期ロマン派以降、特にラフマニノフ、プロコフィエフを取り上げていることが多い。

このリサイタルでも、取り上げたのはラフマニノフの「音の絵」、スクリャービンのソナタ#10、リゲティのエチュード、プロコフィエフのソナタ#8などで、全体にわたってロマンティシズムとモダニズムが錯綜する、まさにユジャ・ワールド全開の選曲です。

CDですから、動画と違ってしばしば議論の対象になる扇情的なファッションは封印され、ライブという緊迫感だけがひしひしと伝わってくる。ピアノの音だけが勝負ですから、独奏曲だけのアルバムはユジャの本気を伝えているということ。

東洋人の決して大きくない体格で、これだけパワフルにラフマニノフを弾きまくれるというのは、それだけでかなりの技巧と力強さを持っている証明みたいなところですが、スケートなら4回転サルコウをいとも簡単にこなせる実力というところ。ただし、優勝するためには指先まで神経を行き届けさせる芸術点も忘れてはいけない。

そのあたりは現代曲では、個人の感覚に頼り過ぎるきらいがあるので評価が難しい。古典まで遡らないまでも、せめてロマン派を中心の独奏プログラムを聴いてみたい感じです。

アンコール4曲がCDには未収録ですが、ストリーミングで配信されています。実は、こっちの方が気持ちがリラックスしてのびのびとした演奏を聴くことができたりします。

カプスーチンにせよ、シューマンにせよ、チャイコフスキーにせよ、鍵盤を楽し気に指が動き回る感じが捉えられています。特に、動画でも見れるプロコフィエフのソナタ#7の第三楽章は、左手の低音の強靭な打鍵力をあらためて感じさせ、見た目だけではないユジャの底力を感じさせるものです。