2020年9月6日日曜日

The Great Jazz Trio / At the Village Vanguard (1976)

自分にとって、リアルタイムに最もはまったジャズ・コンボは、グレート・ジャズ・トリオ(GJT)。

基本的には、影に埋もれそうになっていたハンク・ジョーンズを、再度表舞台に引っ張り出したグループで、そのきっかけは我が日本の誇る渡辺貞夫でした。

フュージョン路線を走って一般への人気が上がった渡辺が、1976年に久しぶりにストレートなジャズ・アルバムを作るにあたって、サポートに入ったのが前年より活動を開始し話題になり始めていたハンク・ジョーンズ、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスによるトリオでした。

70年代に新しい日本のジャズ・シーンを牽引したEast Windレコードが、渡辺貞夫のアルバムの翌日に彼らの最初のアルバムを制作したのです。ただし、GJTはロン・カーターの都合がつかずにベースはバスター・ウィリアムスでした。

ちょうど、この1か月後ニューポート・ジャズ祭で、ハービー・ハンコックがV.S.O.P.クインテットを結成し、新主流派とも呼ばれる新しいモダン・ジャズの機運が高まるのですが、当然そこにも参加しているロンとトニーは70年代最強のリズム・セクションです。

古いタイプのハンクのピアノが、若い二人のエネルギーに触発されて一気に爆発するようなところがGJTの最大の魅力。レパートリーも、彼らのオリジナルとスタンダードが半々で、まさに古さと新しさを併せ持った演奏は、まさに「かっこいい」スタイルでした。

GJT名義は、2010年にハンクが亡くなるまで続きますが、1975年~1978年までのロンとトニーを擁したトリオが、圧倒的過ぎてこの後凄い人が参加したりはしますが、基本的にはハンク・ジョーンズ・トリオであってグレートを冠するには値しません。

渡辺貞夫との共演3枚、ジャッキー・マクリーンとの共演1枚を含めて、全12枚のアルバムを残していますが、やはり圧倒的なのは、ジャズ・クラブの名門ヴィレッジ・バンガードでのライブ。いずれも大リーグの野球をモチーフにしたジャケットも秀逸でした。

当初Vol.1、Vol.2の2枚構成でしたが、後に追加の1枚があり、全3枚13曲を聴くことができます。曲として一番のお気に入りは、Vol.2に収められた「Nardis」です。ビル・エヴァンスの耽美的な演奏で有名ですが、パップ・ピアニストのハンクらしい見事な緩急が素晴らしい。そしてロンのベースのフィンガリング、トニーのブラシ・ワークも冴えわたります。

アルバムとしては、Vol.1。1曲目がチャーリー・パーカーのパップ期の名曲「Moose the Mooche」で、この古い曲がまさに新しく蘇って、いきなりGJTワールドに引き込まれるところが最高です。