アカデミー賞主要部門(作品賞、監督賞、脚色賞、主演男優賞、主演女優賞)を制覇した、今となっては古典的名作サイコスリラー映画。監督はジョナサン・デミですが、はっきり言ってこの作品以外は目立った活躍をしていません。
あまりにも強烈なキャラクターであるハンニバル・レクター博士を創造したのは、原作者トマス・ハリス。レクター博士のシリーズは、この映画のヒットによりすべて映画化されました。
FBI訓練生のクラリス・スターリング(ジョディ・フォスター)は、上司のジャック・クロフォード主任(スコット・グレン)から、通称バファロー・ビルによる連続猟奇殺人事件について、厳重に監視された刑務所の精神病院に収監されている元精神科医のレクター博士(アンソニー・ホプキンス)の意見を聞いてくるように命じられます。クラリスは大学で犯罪学と心理学を学んでおり、いわゆるプロファイリングの能力を期待されていました。
レクター博士は、過去に自らが殺人を犯し、被害者の体の一部を食べるという異常犯罪を繰り返していたのです。レクター博士は高い洞察力を持ち、その鋭い言動は言葉で人を死に追いやることさえありました。面会に来たクラリスを見て興味を持ったレクターは、クラリスの出自を探ったり、巧妙に心理的な圧をかけてくるのでした。
そこへ新たなバファロー・ビルによると思われる遺体が発見されました。クロフォードはクラリスを伴って現地に向かいます。被害者の喉に何かが押し込まれており、取り出すと「死の頭」と呼ばれる珍しい蛾のさなぎであることがわかりました。
さらに上院議員の娘キャサリンが行方不明となり、やはりバファロー・ビルの犯行が疑われます。上院議員はもっと人間的な生活ができる刑務所への移動を条件に、レクター博士へ協力を願い出ました。レクターは、クラリスが個人的な質問に答えれば協力すると言います。クラリスは、早くに母親に死なれ、警察官だった父親も犯人に撃たれ亡くなったこと話します。
レクターの現在の主治医チルトンは、自分の出世のために直接上院議員と連絡を取り、移送して議員との面会を実現しました。レクターは、自分のかつての患者の一人を犯人として教えます。しかしそれもレクターの「遊び」だと考えたクラリスは、再び面会に訪れる。
レクターは、父親の死後、牧場を経営する親戚の世話になったがすぐに逃げだした理由を問いただすのです。クラリスは悲鳴をあげる子羊が屠殺されるところを目撃したことを話し、レクターはキャサリンを救えれば羊の悲鳴は消えるだろうと言います。その夜、レクターは隙を突いてついに脱走するのでした。
クラリスはレクターの残した資料から、一人捜査を進めバファロー・ビルをついにつきとめます。間一髪、真犯人を射殺したクラリスは、無事にキャサリンを救出することができました。クラリスは訓練学校を卒業し、無事に正式な捜査官に任命されます。
そのパーティの場に、レクターからクラリスに電話がかかってきました。「羊たちの悲鳴は消えたかね、クラリス」と言うと、レクターは受話器を置いてチルトンの後をつけていくのでした。
バファロー・ビルの事件だけに絞ったストーリーであれば、犯人捜しのミステリーとしても成立しますが、ありきたりのクライム・サスペンスになっていただろうと思います。タイトルは、当然クラリスの過去のトラウマからきていることからもわかるように、むしろ、レクターとクラリスの心理戦ともいえる会話の怖さがこの映画の一番の見所。
まだ初々しさが残る30歳のジョディ・フォスターが、まだ半分アマチュアの捜査官を熱演している。また、それ以上に、アンソニー・ホプキンスの実に落ち着き払った気味の悪さがすごい。間違いなく彼の代表作と言える演技だと思います。
続編となる「ハンニバル(2001)」はリドリー・スコットが監督し、レクター博士はアンソニー・ホプキンスが続投。クラリスはジュリアン・ムーアが演じました。