ダン・ブラウン原作のロバート・ラングスドン教授シリーズの第1作(2000)ですが、「ダ・ヴィンチ・コード」のヒットを受けて順番は逆ですが映画化されました。ダン・ブラウン自身は製作総指揮に再びクレジットされていますが、今回は脚本には口を出していないらしい。監督は、前作に引き続きロン・ハワードが担当しました。
今回もキリスト教に関連した陰謀の話ですが、キーワードは「イルミナティ」だけで、キリスト教徒でなくてもよく知られたコンクラーベにまつわる事件ということで前作よりも圧倒的にわかりやすい。
原作は未読ですが、映画化に当たっては内容をしっかり整理してあるようです。逆に、原作を先に呼んだ方は、重要な登場人物が映画では出てこなかったり、物語の背景についてもかなり簡略化しているところが不満になっているようです。
もともと天動説により宇宙の動きが考えられていましたが、15世紀にコペルニクスによって地動説が唱えられるようになりました。近代科学の祖とされるガリレオ・ガリレイは、17世紀はじめに木星の観測などから理論的に地動説を説きましが、キリスト教がこれに噛みつき異端として裁判に発展します。そして17世紀末には、アイザック・ニュートンによって確立されました。
映画の中では秘密結社イルミナティが復活して、ガリレオやニュートンを絡めてバチカンを脅迫するのですが、キーとなる芸術家ジャン・ロレンツォ・ベルニーニも17世紀の人物。イルミナティは18世紀の話なので、正確には一緒にすることは問題。
科学的な物の見方が進むことで、宗教的な観念的な思想の矛盾にたどりつくかもしれないというのが、いわゆる啓蒙思想であり、その中で理性を持ってキリスト教を実践していこうとするのがイルミナティという集団だったと言えそうです。ですから、ローマから迫害されたガリレオらを利用することは矛盾しないのかもしれません。
1770年代に始まり、主としてバイエルンで急速に広がりを見せたため、危険視した教会などからの圧力により、政府が弾圧しわずか10年程度で消滅したとされています。
ローマのバチカンは、キリスト教カトリックの総本山で、全世界10億人ともいわれる信者の頂点に立つのは、現在は2013年に即位したフランシスコ教皇で、教皇としては第266代目。その教皇を選ぶための選挙がコンクラーベといわれる伝統的な行事です。
教皇は終生職ですので亡くなった場合に、サン・ピエトロ寺院に隣接するシスティーナ礼拝堂の中に、世界中から120人の枢機卿が集まり非公開で次期教皇を選出します。この間は、カメルレンゴと呼ばれる生前に教皇が指名していた枢機卿が、教皇権限を代行します。なお前教皇ベネディクト16世は、およそ700年ぶりに生前辞任をしています。
映画は教皇の死去により、バチカンでコンクラーベが執り行われることになったところから始まります。研究所から反物質を盗み出したイルミナティを名乗る者が、有力候補の枢機卿4人を誘拐し、1時間ごとに公開処刑し、最後に反物質の爆発によりバチカンを消滅させると脅迫してきました。
バチカン警察は、ただちにアメリカからロバート・ラングドン教授を招き、脅迫文の解読を依頼します。また反物質の研究をしていたヴィットリア・ヴェトラ(アイェレット・ゾラー)も協力することになります。
最初の処刑予告時間が迫る中、ラングドンはバチカン資料室のガリレオの古文書から、ヒントをつかみ最初の現場に向かいますが間に合わず、無残な枢機卿の遺体を発見します。さらなるヒントを得て次の場所に行きますが、またしても犯行に間に合わない。3番目では犯人に追いつくものの、銃撃され計画を遂行されます。4番目は、犯人に逃げられたものの何とか枢機卿を救うことができました。
残るは反物質だけで、容器の充電が切れて大爆発が起こるまでにわずかです。そして、ついにサン・ピエトロ寺院の中に仕掛けられていることを突き止め、ヴィットリアは何とか充電の補充を試みますが時間が足りない。カメルレンゴのマッケナ(ユアン・マクレガー)は、容器を手にすると一人ヘリコプターに飛び乗りどんどん高度を上げていくのでした!!
というわけで、わずか5~6時間程度に次々に枢機卿が殺され、時間との勝負でラングドンがローマ中を走り回るというスピーディな展開。サスペンス重視の演出に徹したことで無駄がない出来栄えとなっています。イルミナティはあくまでもサスペンスのきっかけで、映画では深入りし過ぎなかったのは正解だと思います。
実際にはバチカンはロケを許可していないので、セットやCGを使った背景は本物と見間違えるほどの仕上がりです。特にシスティーナ礼拝堂は素晴らしい。コンクラーベは公開されていないのですが、おそらくいろいろな情報から現実に行われていることに限りなく近いものとして映像化されているのだと思い大変興味深い。
原作との違いはともかくとして、少なくとも映画的な展開は前作をはるかにしのぎます。探偵側二人が、非警察・非バチカンですが、そこにいる理由に無理がなく合点がいくところ。意外な結末と共に、宗教サスペンスとしてよくできた作品になりました。
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