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2022年5月13日金曜日

旨味の話


味覚には基本の、塩味・甘味・酸味・苦味・旨味の五味があります。これらは、人が生物として生きていくことに必要な機能と考えられていて、塩味はミネラル、甘味はエネルギー、旨味はタンパク質をそれぞれ摂取するための判断材料となります。一方、酸味は腐敗物、苦味は有毒物を摂取しないための機能になります。

これらを舌にある味蕾と呼ばれる器官(7000個くらいあると言われています)で感じ取り、脳に信号を送って生命維持に役立てているのですが、危険信号になる酸味や苦味も「美味しさ」のための一手段として活用していくのが料理という「科学」の基本命題と言えそうです。

あれ? 他にも辛味とか渋味とかあるでしょ? というのは、当然の疑問。辛味は温度を感じる神経受容体を刺激するもの。渋味は口腔粘膜のたんぱく質を縮ませることによって感じるものとされ、味蕾で感じているわけではありません。従って、生理学的な味覚からははずれて補助味と呼ばれています。

旨味は、20世紀初めに東京大学教授、池田菊苗によって、昆布出汁から発見されたグルタミン酸が歴史上最初です。続いて、和食の基本の味となる、鰹ぶしや椎茸からも旨味物質が日本から判明してきました。

西洋では、硬水が普及している関係で旨味を抽出する料理文化が根付いておらず、塩味・甘味・酸味などの複合的な感覚と考えられていました。科学的に旨味の受容体が発見されたのは、実は2000年のことで、やっと独立した概念として世界中で認知されたのは比較的最近のこと。

旨味となる物質は、アミノ酸・核酸関連物質・有機酸の3つに大別されます。アミノ酸と核酸関連物質は、和食で特に重視されています。

代表的な旨味成分としては、アミノ酸では、L-グルタミン酸ナトリウム(昆布)があり、実はイタリア料理で多用されるチーズやトマトにも含まれています。アスパラガスにはL-アスパラギン酸が含まれています。

核酸関連物質としては、鰹節に含まれるイノシン酸があり、他の肉や魚も持っているもので、熟成によって増加します。椎茸のグアニル酸も、干すことによって増加します。有機酸としては貝に含まれるコハク酸があり、日本酒にも入っています。

イタリア料理では、旨味の存在を認識していなかったにも関わらず、自然と旨味成分の多い食材を組み合わせることが備わっていたということが言えそうです。トマトソースの魚介料理にマッシュルームを入れてパルミジャーノレッジャーノ・チーズをかけるなんて、旨味のレッド・カーペットです。

1908年に池田によってグルタミン酸が発見されると、その翌年には調味料として発売され、それが「味の素」になりました。いわゆる化学調味料の先駆けですが、当初は石油由来物質から製造していたため、70年代に健康への影響が議論されました。以後、安全性の高い製法に変更され、適切な量では問題ないことがわかっています。

ただし、塩の場合は過剰だと人は塩辛くて食べれないという反応を示しますが、旨味は過剰に摂取すると感覚は飽和した状態になり、さらに増やしても実感できなくなり、健康へも影響するので注意が必要です。