1994年2月に「Never ending Tour」が、バッキー・バクスター(pedal steel g, slide g)、ジョン・ジャクソン(g)、トニー・ガルニエ(b)、ウィンストン・ワトソン(ds)という安定した編成で再開されます。そしてスタートとなったのが日本。1978年の初来日以後、1986年、1988年、1989年、1990年と続いて、6回目の日本でのコンサートが行われました。
2月には日本での10回のライブの後、東南アジアで4公演を行い、3月は休養。4月は北米ツアー25公演、7月はヨーロッパ・ツアー17公演、8月と10月は再び北米ツアーで計48公演という具合で、ステージに立つことがまさに生きている証とでもいうような生活が続きます。
その合間をぬって、この年、5月には再度日本を訪れ、奈良・東大寺での「The Great Music Experience (あおによし)」に出演しました。大仏殿前特設ステージで開催された文化庁・NHK主催の国際音楽イベントで、ディラン以外にもライ・クーダー、ジョン・ボン・ジョヴィ、そして何とジョニ・ミッチェル(フィナーレではディランと1本のマイクを分け合いました)らが参加しています。
マイケル・ケーメン指揮のフル・オーケストラが伴奏につき、ディランにとっては初めて、そして唯一のオーケストラとの共演になりました。しっかりと編曲された譜面通りの伴奏では、ディランはさぞかし歌いにくいだろうと思いきや、普段の自分に合わせるためにバンドに追いかけられる立場から解放され気持ちが良いと、意外にその出来に満足していたらしい。
8月のツアーの真っただ中に組み込まれていた特別な公演が、「ウッドストック・フェスティバル」です。これは1969年の伝説となったロック・フェスティバルの25周年を記念して企画されたもので、1969年当時はディランはウッドストックで隠遁生活をしていましたが、同時期のイギリス、ワイト島でのフェスティバルに参加してウッドストックは無視していました。
この年のディランのステージはフェスティバルの目玉であり、多くの期待を背負ってツアー・バンドと共に熱い演奏が繰り広げられました。残念ながら(ごく一部を除いて)公式音源はありませんが、テレビ放送からの海賊盤のCDやDVDは広まっているので、この時期の充実した演奏ぶりを確認できます。
そして、もう一つの特別なライブが11月に行われた「MTV Unplugged」です。ミュージック・ビデオ専門チャンネルであるMTVは、1989年から「電源プラグを抜いた」編成による電気楽器を使わないアコースティックなライブという企画を立ち上げていました。アーティスト達の新たな魅力を掘り出したり、低迷していた者が復活するきっかけになったりと、大きな話題を集めるようになっていました。
特に1992年に発売されたエリック・クラプトンのunplugged liveは大ヒットし、聞き慣れた曲の再発見と新しいファンの獲得に大きな成果がありました。21世紀になってからは放送の頻度は減少しましたが、その後もたまに番組は製作され続けています。80年代はディランでさえ一時はまった過剰なエフェクトをかけ、シンセサイザーなどの電子楽器を大量に使用する音楽が氾濫したため、それに対する反動、アンチテーゼ、そしてアーティストの素を見たい・聞きたいという欲求が高まったことが人気の理由に関係しています。
ディランのunpluggedは、MTVからの長年の要望として実現しました。ディランとしては直近2枚のアコースティック・アルバムの流れでステージを構成したかったのですが、ライブ・アルバムを発売したいコロムビアと視聴率を取りたいMTVからの強い希望により、これまでの代表曲を中心にアコースティック・アレンジで再解釈するセットリストとなりました。
なお、コロムビア・レコードはアメリカのテレビ局CBS傘下の企業ですが、日本での販売を担っていたSONYに1988年に買収され、Sony Music Enterteinment (SME)に社名が変更されています。巨大音楽業界における、まさに下剋上的なビッグ・ニュースでしたが、レーベル名としてのコロムビアは継承され使われていました。
11月17日、18日の2日間にわたり、ニューヨークのソニー・ミュージック・スタジオで、ツアーのレギュラー・バンドにオルガン演奏のブレンダン・オブライエンが加わって収録が行われ、曲の構成上、一部にPluggedが用いられてはいますが、12月に初回放送され大人気コンテンツになりました。翌年4月には、公式にCD、DVDが発売されています。ちなみにリハーサルや放送されなかった曲などは、例によって海賊盤がありますので、マニアは完全網羅可能です。
公式盤は大ヒットし、特に「John Brown」と「Dignity」は今回が初出の演奏で注目されました。ただし、評価としてはあまり高まっていません。その理由は、「内容がGreatest Hitsなので新鮮味がない」、「直近のアルバム曲を聞きたかった」、「ディランは元々unpluggedのフォーク・シンガーだ」といった意見が多い。その一方で、ボカールが際立つステージだからこそ、ディランのボーカリストとしての真価が発揮されたことは高く評価されています。
Tombstone Blues
Shooting Star
All Along the Watchtower
The Times They Are A-Changin'
John Brown
Rainy Day Women #12 and #35
Desolation Row
Dignity
Knockin' on Heaven's Door
Like a Rolling Stone
With God on Our Side
DVD only:
Love Minus Zero / No Limit
Bob Dylan (vo, g, harmonica)
Tony Garnier (b), John Jackson (g), Brendan O'Brien (org)
Bucky Baxter (pedal steel g, dobro, mandolin), Winston Watson (ds)
November 17, 18, 1994, New York City
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