2020年12月28日月曜日

ターミナル (2004)

これは、前作に続いてスティーブン・スピルバーグの作品には3回目の登場となるトム・ハンクスが主演の現代劇です。フランスのシャルル・ド・ゴール空港に実在した人物をヒントにした話で、そのエピソードは「パリ空港の人々(1993)」としても映画化されています。

クラコウジア共和国(架空の国)から、ニューヨークに到着したビクター・ナボルスキー(トム・ハンクス)は、入国審査にひっかかる。彼が旅立った直後に軍事クーデターが発生し、パスポートもビザも無効となってしまったのです。

帰る国が無くなり、かといってアメリカに入国できないナボルスキーは、乗り継ぎロビーの中に足止めされることになってしまいます。ところが、ナボルスキーは英語がわからず、テレビのニュースで何とか自分の立場を理解するのです。

言葉が通じない状況のもどかしさは、ハンクスは自らのアドリブの「クラコウジア語」でこなすところはさすがです。何か月かたって、ナボルスキーは英語を勉強し、しだいに空港の底辺で働く人々と仲良くなり、なんとか食いつないでいく方法を見つけ出しました。

たまたま知り合ったCAのアメリア(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)に恋心を抱くようになります。アメリアは妻のいる男性と交際中でしたが、ナボルスキーの真っすぐな気持ちに惹かれるようになります。

しかし、空港から動けない状況がアメリアに知られてしまい、ナボルスキーは本当の訪米の目的を話します。それは、亡くなった父親の夢だった、ジャズ・ミュージシャンのサインの最後の一枚を貰うためだったのです。

アメリアは不倫相手とよりを戻し、その代償として彼のコネでナボルスキーの1日だけ有効なビザを取得してあげました。ちょうど、クラコウジアの紛争も終結し国に帰ることも可能になりました。

しかし、特別ビザに必要な入国警備責任者のサインが無く、責任者はこれまでもナボルスキーを邪魔者扱いしてきた人物。彼はサインを拒み、即刻出国するように脅迫します。入国を断念したナボルスキーに対して、仲良くなった大勢の空港で働く人々が応援し、ついにビザなしの不法入国を承知で空港の外に出ていくのでした。

そもそも、このような事態が現実に起こるのかという疑問があります。実際には、似たようなケースは多々あるようですが、さすがにアメリカでこのようなことはなさそうですし、実際あったらアメリカの人道主義も嘘くさくなる。

それを嘘と思わせないように作り上げていくのが映画であり、監督の手腕ということになります。さすがにスピルバーグはそんな疑問が湧かないように、正直者ハンクスの演技に支えられて軽快にストーリーを作り上げました。

また、911で空港でのロケができなくなったため、巨大な倉庫に5か月間かかって作り上げたセットは見事で、これもまた嘘を本物に見せる事に大いに役立っているようです。

全体的には評判は上々でしたが、現実味については許すとしても、やはり見ていて気になったのはナボルスキーとアメリアの関係。アメリアは元サヤにおさまって二人の恋は成就しないわけですが、スピルバーグは恋愛について描くことはうまくないという見本みたいな感じ。せっかく人気女優を揃えたのに、存在感としては薄いのがもったいない。

掘り下げれば重たいテーマも考えられる内容ですが、ちょっとだけロマンスを匂わせたライト・コメディとして見れば、十分に楽しめる作品です。