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2020年12月6日日曜日

カラー・パープル (1985)

これまで、どちらかというとアクション、SFといったエンターテイメント性の高い映画を作って、ハリウッドで稼げる監督として名をあげてきたスティーブン・スピルバーグですが、今までの時期を若さに任せて勢いに乗ってきた成長期とするならば、この作品で映画作家として円熟期を迎えることになるのです。

特に「E.T.」では、単なるSF映画というより、こどもたちが大人になっていく貴重な体験をメイン・テーマにして、アカデミー賞に多くの部門でノミネートされていましたが、実際のところメインの賞は、「ガンジー(R.アッテンボロー監督)」に持っていかれてしまいました。

これにスピルバーグは、表立ってコメントしていませんがかなりショックだったことは間違いない。やはり、いろいろな意見はあってもアカデミー賞は、ハリウッドの最高の名誉であることは無視できないところです。

だからというわけではないかもしれませんが、この映画でスピルバーグは本気でアカデミー賞を狙いに行ったことは確実です。ただし、残念ながら10部門にノミネートされたにもかかわらず無冠に終わっています。

これには、ほぽ黒人だけの登場する映画を作ったこと、そしてスピルバーグの魂胆が見え隠れしたことによる抵抗感などが災いしたのかもしれません。権威主義的なアカデミー賞の世界では、この年、王道と言えるシドニー・ポラック監督、ロバート・レットフォード、メリル・ストリープ主演の「愛と哀しみの果て」が主な賞を持っていきました。

実は、スピルバーグ初の文芸大作であるこの映画は、何となくそれまでのスピルバーグらしさが感じられなかったことから、ずっと未見のまま放置していました。今回、スピルバーグ作品を制覇しようと思いついて、初めて視聴したんですが・・・・不覚にも涙を隠せませんでした。

もちろん、20世紀初頭の40年間あまりを舞台にして映画で、アフリカ系アメリカ人の苦しみを本当に知っていないと、この作品の本質は理解できないと思います。それでも、人間のドラマとして、人と人とのつながりは世界共通に伝わるものがあり、間違いなく感動を与えてくれるものです。

「ガンジー」にしても、「愛と哀しみの果て」にしても、実際のところ、その後あまり語られることがなくなったことがすべて。40年たって、現在でも忘れられることなく受け入れられている映画は「E.T.」であり「カラー・パープル」だと思います。

黒人であるアリス・ウォーカーが書いた原作の小説は、ピューリッツァー賞のフィクション部門を受賞しました。物語は白人に対する戦いではなく、黒人社会の中での家族の在り方、そして黒人女性が自立していく過程を描いたものでした。

音楽家として成功したクインシー・ジョーンズが映画化を推進し制作として携わり、監督としてユダヤ系白人であるスピルバーグを指名しました。キャスリーン・ケネディらを筆頭にスピルバーグの白人スタッフが、原作者と緊密な連絡を取り合って、オリジナルの雰囲気をしっかりと映像の中に取り込みつつ映画としての「らしさ」も存分に出しきった作品に仕上げたと言えます。

1861年からの南北戦争を経て、リンカーンが奴隷解放宣言をしたのは1863年のこと。そして、奴隷解放が完了したのは1865年末のこととされます。この物語は1909年に始まります。美しい紫色の花畑で手遊びをして楽しむ黒人姉妹、セリーとネッティの映像から始まります。

奴隷解放から40年以上が立っていても、アフリカ系アメリカ人は白人による抑圧された生活をしていたことが描かれまていますが、それよりも多くの時間を費やすのは男性による女性差別で、一部のアフリカ系の女性はいまだに奴隷と同じような生活を強いられていました。

さらに、近親相姦、人身売買、同性愛などのタブー視される深刻な問題もあったこと含みながら、笑うことを封じられたセリーが、離れ離れになってた妹からの手紙によって、約30年かかって自分の存在に自信を持ち自己を開放するのです。そして、再開した姉妹は再び花畑で手遊びをするシーンで映画が終わります。

終盤まで暗いストーリーが続き、辛い思いをする女性ばかりが登場するので、理解が不十分な外国人にとってはある程度の忍耐が必要かもしれません。しかし、長い時間が映画の中で経過していますが、場面転換の演出はさすがに素晴らしい。登場人物が年を取っていくことへの違和感はありません。

最後のシーンでは、女性たちの凛々しさを見事に見せてくれて、離散した「家族」が長い年月を経て再生していくことを暗示することで、さわやかに見終えることができるのです。

主演で初映画のウーピー・ゴールドバーグは、最も注目されました。彼女に限らず、主要キャストであるマーガレット・エイヴリー、オプラ・ウィンフリーもアカデミー賞にノミネートされ、出演者が真剣に役になり切って台詞を自分の言葉としてものにした結果だと思います。

スピルバーグは、この作品以降、娯楽作品と文芸作品を交互に作るようになり、映画作家としてより高い次元を目指すことになりますが、その一つの到達点に達するまでにはまだ後何年も必要でした。