2020年12月25日金曜日

マイノリティ・リポート (2002)

21世紀のスティーブン・スピルバーグ監督作品は、有名人気俳優が続々登場しますが、今作ではトム・クルーズが主演。

今から30年くらい先の近未来を描く、ハードSFアクション作品。この作品の世界観は、入り組んでいて、最初に実例が示されるものの、終わりまで見てやっとわかりかけるという感じ。ですから、一度だけでなく、もう一回見るくらいの元気が必要かもしれません。

犯罪、特に殺人事件の発生数が膨大な数になり、これを抑止するために警察の一部としてワシントンで犯罪予防局が設置されているところから話が始まります。このシステムは、3人のブリコグ(precognituve、予言者)が頭に浮かんだ犯罪イメージから、現場に急行し実際の殺人が起きる前に容疑者を逮捕し収容するというもの。

このシステムが稼働してから、殺人事件はゼロになり、バージェス局長(マックス・フォン・シドー)は全国に広げることを政治的な目標にしています。これに対して、司法省はシステムの安全性に疑念を持ちウィットワー調査官(コリン・ファレル)を送り込んできます。

予防局の優秀な警察官であるジョン・アンダートン(トム・クルーズ)は、6年前に幼い息子を誘拐され失ったことから、精神的ストレスを薬物で紛らわしながら、犯罪抑止に異常なほどの執着をしているのです。

ある日、プリコグの一人であるアガサ(サマンサ・モートン)は、アンダートンにだけ初めての殺人イメージを見せます。この事件を調査し始めると、今度は見知らぬクロウという人物をアンタートンが殺すイメージを送ってきました。これは何かの罠だと感じたアンダートンは逃走します。

アンダートンは、システムの開発したハイネンマン博士から、三人のプリコグが共通に見た予言だけが、捜査対象になり、個別にみるものは少数意見(マイノリティ・リポート)として無視するシステムだと教えられ、真実を知るためにアガサ連れ出します。彼女のマイノリティ・リポートは、彼女の母親が殺される場面であることを確認し、彼の殺人予言現場にたどり着きます。

クロウは息子の誘拐犯であると自白しますが、アンダートンは寸前のところで警察官であることを思い出し殺人を踏みとどまる。ところが、家族への大金と引き換えに誘拐犯を演じて殺されるよう依頼されたと言って、クロウはアンダートンの銃の引き金を自らひかせるのでした。大きな罠の中で、アンダートンはついに逮捕され収容所に送られてしまうのですが・・・

これは個人情報を高度に管理する未来の話で、実際に前年の同時多発テロ事件後、個人情報に対して強力に立ち入る動きが出始めていることに対しての問題提起が含まれているようです。個人情報を管理するだけでなく、それを好きなように操作して変更することができてしまうと、簡単に犯罪者を作り上げることが可能になる怖さが描かれています。

近未来を想像した各種の小道具も楽しい。いかにも、実現しそうなものばかりですが、組み立てられた車が「レクサス」だったりするのはご愛敬。いたるところに設置された網膜スキャンにより、個人を特定し行動が当局に筒抜けなのは、今の中国・韓国あたりが近づいているのかもしれません。

さすがクルーズといえるアクションも盛りだくさんで、スピード感のあるスリルとじわじわとやって来るサスペンスのバランスはなかなかのもの。バージェスはどこかで見たと思ったら、「エクソシスト(1973)」のメリル神父そのままじゃないでいか。シドーはメーキャップで老け役をしていたのですが、ここではそのまま年を取りました。

撮影されたフィルムは、「銀残し」と呼ばれる特殊な現像テクニックにより、ざらついたコントラストの強い画面は、現実感を強調します。これは「プライベート・ライアン」でも用いられた手法で、元々は日本初の技術。発色を抑え、コントラストを象徴できるアーティスティックな画像を作れます。

内容としては、SFですからいろいろ都合よく設定できるところがありますが、登場人物の逃走、侵入などが簡単すぎて驚かされます。近未来のセキュリティはいったいどうなっているのか、むしろ心配になります。

そしてスピルバーグの、だんだん気になるようになったエピローグ。さすがに悪が滅びで終わりで良さそうな感じですが、皆が平和に暮らしましたとさ、めでたし、めでたし、という説明がくどい感じ。すっきり終わらせたいという、スピルバーグのサービス精神なのかもしれませんけどね。