2020年12月27日日曜日

キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン (2002)

今度のスティーブン・スピルバーグ監督作品は、60年代末にアメリカに実在した偽造小切手の天才的詐欺師たフランク・W・アバグネイル・Jrの自伝をもとにしたストーリー。

アバグネイルは、17才でパンナムのパイロットになりすまし、医師として病院に潜り込み、さらに弁護士として裁判に登場しました。21才で逮捕されるまで、FBIを翻弄し続けた天才的手腕は、ある意味素晴らしいの一言に尽きます。

タイトルは直訳すれば、「やれるもんなら捕まえて見ろ」ということですが、これはアメリカの鬼ごっこでの決まり文句。スピルバーグは、アバグネイルが犯罪に手を染めるようになった経緯から、FBIに協力して偽造小切手を調査する専門家になるまでを、軽めのタッチでやすやすと描いていきます。

冒頭のタイトル・シークエンスは、スピルバーグには珍しい影絵のアニメーションで、追いかけっこをコミカルにトレースしています。そして、フランスの刑務所で服役中の悪人面したアバグネイル(レオナルド・ディカプリオ)が登場。アメリカへの移送のため訪れたのはFBIの捜査官ハンラティ(トム・ハンクス)で、アバグネイルは仮病で騙して逃亡しようとして失敗。

アバグネイルのまだ純真な17才から始まっても困らないところですが、最初にこのシーンを見せることで、アバグネイルがどういう人物なのか、そしてハンラティとの関係が表現されることで、話に入り込みやすくなっているというところでしょうか。

また、このシーンが無いとアバグネイルはいい子で始まり、いい人で終わってしまいます。この後も、移送中の「今」と過去のイベントが交互に登場して、しだいにその時間差が埋まっていく「追いかけっこ」構成を取っています。

基本的にここでスピルバーグが、映画化に興味を持ったのはおそらく「父子関係」であり、アバグネイルは大人になり切れないこどもです。そして、ハンラティとの間に疑似的な父親像を見出すことで、本当の大人になっていくことを描きたかったのだろうと思います。

裕福な家庭で幸せな暮らしをしていたアバグネイルは、父親(クリストファー・ウォーケン)の事業の失敗で暮らしが激変し、ついに両親は離婚。家でしたアバグネイルは、父親が金策で自分を利用したときのやり方をヒントに、小切手偽造詐欺に手を染めるのです。

当然、FBIの捜査対象になり、金融詐欺を専門とするハンラティの捜査対象になります。少しずつアバグネイルとハンラティの距離は縮まっていくのですが、いろいろな職業に成りすましている間に、本当の父親とハンラティには連絡を取り合うようになっていました。

小切手の偽造テクニックもどんどん上達。騙して司法家の娘に近づいてたアバグネイルは、本気で結婚を考え、彼女の父親(マーティン・シーン)にも家族への憧れを見出すのです。しかし、ついにハンラティに距離を詰められ海外へ逃亡。フランスで偽造小切手を作り続け、執念で追いかけてきたハンラティの説得で自首することになりました。

アメリカに移送される飛行機の中で、本当の父親が亡くなったことを知ったアバグネイルは慟哭し、一瞬のスキをついて着陸した飛行機から逃亡。そして母親のもとに向かいますが、母親は父親の親友と再婚しこどもまでもうけていました。駆け付けたハンラティに抵抗することなく逮捕され服役することになります。

ハンラティは、アバグネイル偽造小切手の鑑定能力に気がつき、保証人となって出獄させます。そしてFBIの中で働くことになるのでした。例によって、最後にその後のアバグネイルがどうなったかの語りと、「ハンラティとはいい友達でいる」ことが説明されます。

一度気になると、このスピルバーグの親切なエピローグはどうも気になる。実話が元ですから、わからないでもないのですが、必要が無いと判断して映像として描かない部分を説明し過ぎるのは、安心する人もいるかもしれませんが、白ける人もいるというところ。

「タイタニック」で人気に火が付いたディカプリオの好演、そして翻弄されつつも捜査を詰めていくハンクスの実直さがいい味をだしています。また、父親ウォーケン、義父まであっと一歩だったシーンら名優を揃えたことも、映画としての深みを出すことに成功した一因です。

ショー・レースに絡むような大作ではありませんが、普通の人間ドラマとして、もう一度見たくなる出来栄えです。