前作でかなりへこんだと思われたスティーブン・スピルバーグでしたが、劇場用映画監督デヴュー10年目にこの映画で再び大ヒットを飛ばし、もうアメリカ映画界で向かうところ敵なしという感じになりました。
70年代末にスピルバーグはアルバトー・ブロッコリ - そう、あの「007」シリーズを手掛けるプロデューサーです - と接触を試み、どうもジェームス・ボンド映画を作ってみたかったらしい。
しかし、持つべきものは友ということで、友人であり一番の理解者でもあるジョージ・ルーカスは言いました。
「ねぇ、スティーブン、アクションだけで物語に深みが無く、いつもの決め台詞だけの映画(確かにその通り)より、もっと面白い物を作れるよ」みたいなことだったらしく、古代の宝を探して世界中を飛び回る謎と冒険が一杯のアクション映画を提案しました。
そこで、二人は細部を話し合いながら、インディ・ジョーンズというキャラクターを作り上げていったのです。お金を出すのはルーカス。ルーカスは細かいことは口を出さないかわり、設定された完成の期日だけは守るように求め、スピルバーグも実際に予定より早く仕上げて見せました。
原題は「Raiders of the Lost Ark」というもので、「失われた聖櫃(アーク)を奪う者たち」ということ。聖櫃(せいひつ)は、ユダヤ教の特別な箱の事で、特にエルサレム神殿内に十戒の石板を収めた物を指すことがあり、キリスト教では「契約の箱」とも呼ばれています。聖書では紀元前600年ごろの時代を最後に聖櫃の記述がなくなっていることから、「失われた聖櫃」という呼ばれ方をするようです。
ユダヤ教・キリスト教に無関心なものにとっては、馴染みのない言葉でしたが、この映画をきっかけに広く知られるようになりました。
何しろ、スピルバーグに「スター・ウォーズ」のジョージ・ルーカス、さらに主演にハン・ソロで一躍有名になったハリソン・フォードが揃ったんですから面白くないはずがない。
特殊効果は「スター・ウォーズ」で大成功を収めたリチャード・エドランドが参加し、強烈な印象を作り上げました。しかし、ハリソン・フォード自身によるアクションや、スタントマンによるさらに危険なシーンもふんだんに盛り込まれていることが効果的です。
音楽は当然ジョン・ウィリアムスで、主題曲は「スター・ウォーズ」トム共に、ウィリアムスの代表曲とるくらい有名になりました。
物語は1930年代を舞台に007シリーズを彷彿とさせるアクションの連続です。映画では冒頭に、007シリーズでお馴染みになったプレタイトル・シークエンスがあります(もっともタイトルはここにオーバーラップしてますが)。
多くの罠を回避して秘宝を手にしたあと、巨石が転がって襲って来る有名なシーンになりますが、この緊迫感のある10分間でインディ・ジョーズの映画の雰囲気がすっかり伝わるのです。逆にあまりに出来が良いため、スピルバーグは本編が退屈と思われないか心配をしたらしい。
当然そんな心配は無用で、ヒットラーのナチスが探している聖櫃を求めて、アメリカからネパール、そしてエジプトに移動して行く様はまさにボンド並み。さらに潜水艦になり、ギリシャの島の秘密基地でクライマックスを迎えます。
この間、捕らえられて危機一髪脱出が何度もあり、ヒロインとのちょっとロマンスも盛り込まれ最後までスピードは落ちません。前作ではギャグの連続で失敗しましたが、ここでは緊張の合間に気の利いた軽めの笑いを挟むだけで、より大きな効果をあげることに成功しています。
スピルバーグのこの映画での収穫は、予定されていた予算と撮影期間を遵守し、映画を作ることのコストをしっかりと意識したことであり、それが監督業と制作業を切り離して考えることにもつながったことでした。そして、自らの制作会社を立ち上げる決断に至るのでした。
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