ショパンと来れば、もう一方の雄がリスト。同時代を生きたピアノの二大巨匠を、あえて恐れず一言で表現するなら、心のショパンと技のリストというのが一般的な見方ではないでしょうか。
ショパンは恋人同士の語らいに似合い、バレンタインデイのBGMにもぴったし。リストはピアノのうまさを見せびらかすにはもってこい。しかし、ちょっと待ってください。リストは、もの凄い技巧を要する曲が多いのは確かですが、実は大変ロマンティックな曲が多いのです。
「愛の夢」はその代表的なものでしょうし、超技巧を要する「パガニーニ練習曲集」の中にも「ラ・カンバネラ」のような大変美しい曲が混ざってているのです。さらに壮大な組曲である「巡礼の年」は、おそらくショパンには書けなかったようなロマンにあふれた叙事詩です。
そんなわけで、正直に言うと自分はショパンよりもリストが好きです。リストにはショパンにもあるロマンスを内包しつつ、技巧的な凄まじさを表出する作曲家だと思っています。
そんな二人ですが、ショパンはピアノ独奏曲以外には、数少ない協奏曲と室内楽曲を残しています。それに対して、リストは独自の世界観を表す交響詩などのオーケストラ作品も残しています。リストの室内楽曲は、比較的晩年に集中的に作られているためか、全体的に死を意識したものが多いようです。
その中で、特にチェロ作品にしぼったアレキス・デシャルムのアルバムがなかなか秀逸でお気に入りです。バイオリンでも演奏されるものも取り上げて、より低音のチェロによってさらに深さを作り上げていると思います。
エレジーで聞かれる絶望を絵に描いたような世界と、どこか小さな光が希望のように輝く感じは絶妙です。映画だったらルキノ・ヴィスコンティの世界とオーバーラップするような感覚に陥ります。
現実とはだいぶかけ離れてしまいますが、間接照明の部屋でウィスキーを片手にソファにゆったりと座り、暖炉のゆったりと動く炎を見ながら聴きたい作品なのです。