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2010年2月5日金曜日

クリント・イーストウッド

クリント・イーストウッドの最新作は、南アフリカを白人支配から解放し最初の黒人大統領になったネルソン・マンデラの話。老いてなお盛んな創作意欲には脱帽するしかありません。

イーストウッドが映画作家として世間一般に注目されたのは、1992年の「許されざる者」でアカデミー作品賞・監督賞を獲得してから。もともと西部劇俳優として功をなしたイーストウッドでしたが、この作品を最後に西部劇はいっさい作っていないのは何故でしょう。

ハリウッドはもともとイーストウッドには冷たかったというのは、けして言い過ぎではありません。60年代に西部劇の人気テレビシリーズの「ローハイド」で注目されたにもかかわらず、イタリアに渡っていわゆる「マカロニウェスタン」で人気を爆発させたのが面白くなかったのでしょうか。

イーストウッドはアメリカに戻ってからもB級のような扱いをどこかで受けていたように思います。1971年の「ダーティ・ハリー」は大ヒットし、それまでの英雄的なヒーロー像を見事に壊すことに成功しました。

しかし、イーストウッドとたびたびコンビを組んだドン・シーゲルは亡くなるまでB級映画監督と言われていたことは事実でしょう。イーストウッドの初監督作品はシーゲルの影響が大きく、ダーティ・ハリー誕生と同じ年の「恐怖のメロディ」が第1作となります。

70年代半ばからはほとんどの出演映画を自ら監督しているのです。初期の作品から、すでに圧倒的なイーストウッド・カラーが見て取ることができます。

遠景から俯瞰ショット、かなりの暗がりの中でのわずかな光の動きを捉えたシーン、自らも得意とするジャズを効果的に使用することが多い劇中音楽など。最初のシーンから、いかにもイーストウッドという雰囲気が漂い、まさに映画作家としての独自の世界はかなり早くから完成していたと言えます。

キャラクターも、完全な正義も完全な悪もほとんど出てくることはありません。ある意味「人間らしい」本音で精一杯生き延びている主人公がしばしば登場するのです。同じ西部劇といっても、「駅馬車」、「OK牧場の決闘」や「真昼の決闘」といったジョン・ウェインらに代表される正統派とは随分と異質のものであることは容易にわかります。

ですから、「許されざる者」も異色の西部劇です。主人公はすでに力が衰えた初老の元ガンマン。銃を撃っても、まったく当たらない。イーストウッドにしてみれば、西部劇そのものがすでに「老人」となってしまったということを自覚していたのではないかと思います。

そして、今更ハリウッドがそれを評価してくれても、監督イーストウッドにしてみれば、時すでに遅しという気持ちだったのではないでしょう。イーストウッドは自分を育て上げてくれた西部劇に別れを告げたのです。

2004年の「ミリオンダラー・ベイビー」では2度目のアカデミー作品賞・監督賞のダブル受賞を果たしました。監督賞はジョン・フォードの4回というのが最多受賞ですが、少なくとも複数回受賞した監督なんて数えるくらいしかいないのです。

ハリウッドはやっとイーストウッドの映画への貢献を正しく評価することができるようになりました。現在79歳。おそらく残された時間は多くはありませんが、あと一つでも二つで、イーストウッドカラーの作品を作ってもらいたい。できることなら、もう一度西部劇をと望むのは、本当のファンではないかも知れませんね。