関節リウマチでは、指の小さな関節から始まる患者さんが多いのですが、中には膝のような大きな関節に症状が出る方も少なくありません。
生物学的製剤と呼ばれる21世紀の新薬が登場する以前は、ある程度の病気の進行を抑制できたとしても、手術治療を行うような膝の変形に至るのが普通のことでした。
手指の変形は、代償機能といって残った部分を使って機能低下を防ぐ力があり、意外と不便を感じていない患者さんが多い。しかし、膝はダイレクトに歩行に影響し、患者さんも「歩けなくなる怖さ」を感じて生活するようになるものです。
変形した膝の関節に対して、通常行われる方法は人工関節置換術というものです。患者さんは、人工関節を入れるということは、抵抗を感じる方がけっこういて、多くの方が大きな手術、つまり危険もある怖い方法と考えていることが多い。
また、自分の体の一部を失うという感じ方をする方も少なくないし、たいてい人工関節が一生もたないと説明を受けることも、手術に積極的になれない一因になっているかもしれません。
人工膝関節置換術は、すでに確立した手術法であり、特に手術用の器具も進化して、一定の成績を出しやすくなった代表的な人工関節手術です。1年目の医者、とまでは言いませんが、ちゃんと勉強してくれば3年生くらいからでもさせても良いと考えます。
輸血を必要とする場合がありますが、自己血貯血という方法があって、あらかじめ自分への輸血用に自分の血液を貯めておく方法が確立していますので、他人の血液の輸血を受ける事はまずないと言ってよい。
慣れた医師が執刀すれば早ければ1時間半程度、新米が行っても2時間半程度で終了します。手術に伴う合併症の予防に対する対策もいろいろと考えられています。ですから、整形外科の中では、スタンダードな手術の一つとして熟成した方法といえます。
日本人は体にメスを入れる事を嫌う国民性があるように思いますが、関節リウマチで膝の変形が生じて、歩行に困難をきたしだした場合には、それが自然に治っていく可能性はほぼゼロと言ってよく、その場合は最善の選択肢は人工関節置換術なのです。
がまんにがまんを重ねることは、変形の程度を強くすることにつながり、手術方法を複雑にして難易度を上げることにつながります。また、その場合は、運動量も落ちていて筋力もかなり減少しているため、術後のリハビリテーションもより大変になるのです。
どんどん歩けなくなって、毎日の生活をどんどん小さくしてしまうことは、最終的に寝たきりに近づくことを意味しています。手術を受ける事を決断することは大変な事だと思いますが、必要になった場合にはそのタイミングを逃すことなく、より痛みの少ない自由な生活を維持するためにも考えていただきたいと思います。
リウマチ学の進歩によって、人工膝関節置換術を受ける患者さんの数は激減した事はまぎれもない事実です。21世紀になって発症し、生物学的製剤を使用している患者さんは「変形を少しでも防ぐ」ことよりも「病気がそのものが治る」ことが目標になっています。しかし、実際にどの薬を使っても効果が上がらない患者さんが、今でも一定の割合で存在します。そのような方にとっては、このような手術治療の必要性は減じていません。
しかし、実は少し心配な事があります。リウマチ治療が内科的側面が増して、薬による治療が中心になってきたために、手術治療についても知識が足りない専門医がしだいに増加してきているのではないかということです。
特に21世紀に医者になった者は、初めから生物学的製剤が存在していて、内服薬の治療についての経験が乏しく、内服薬を使いこなすことが出来ないと思われる事が少なくありません。生物学的製剤を使わなくても、十分にコントロールできる患者さんもいることを忘れてはいけません。
当然、そういう医師は手術を患者さんに勧めることをしたことが無い。適切な手術のタイミングを失う事も当然起こりうるわけで、学会でもこのあたりついてのトレーニングについてはもっと重要性を考慮してもらいたいと考えています。