シューベルトのピアノ・ソナタや小品にはまってしまうと、「幻の名盤」の宝庫みたいなもので、そこがマニア心を余計に刺激します。
ちょっと前に紹介したトゥルーデリーズ・レオンハルトについては、大変情報量が少ないために、CDを集めるのは一苦労。
ご本人のホームページもありますが、日本語で詳しく紹介している、ほとんど唯一のサイトがあります。まとまった情報は、そこでしか得られないと言っても過言ではありません。ありがたいことに、本人に確認済み(!!)のディスコグフィーもまとめてくれています。
一番のレパートリーは、シューベルトですが、録音されたものでは大曲は「さすらい人幻想曲」を除いてほぽ網羅されていて、立派に「全集」と呼べるだけの収録数を誇ります。
フォルテピアノを使用した演奏としては、80年代半ばに開始していますから、世界で一番早くから着手したシリーズです。一番最近の録音がおそらく2007年なので、あしかけおおよそ四半世紀かかっている。
ただし、ソナタは未完成のものは原則として弾かない。世にある補筆版(当然亡くなった後です)は、シューベルトが認めていないわけですから作品として聴かせることはしないというのは正当な見識と言えます。
ただし、もともと小品として完成していて、未完成ソナタの一部と推定されているものについては、独立した作品として演奏されているので、譜面が途中で終わっていない限りは聴くことができます。
一番の問題は、レコード会社が複数にまたがっていることと、いずれも日本では知名度の低いレーベルばかりというところ。
最初は1984~1985年のJecklinというレーベルからLPレコードで全12枚というボリュームで発売された「ハンマーフリューゲルのためにソナタ集」というもの。ハンマーフリューゲルはハンマーで弦を叩くという意味で、チェンバロと差を明確にした言葉。モダン・ピアノもアクションとしてはハンマーフリューゲルですが、通常は歴史的なフォルテピアノを指す言葉の一つです。
その後に全3巻6枚CD化されていますが、何故かD960を含む第2巻だけがデジタル配信されていて簡単に聴くことができます。CDは第2巻と第3巻は、世界中をネット検索するとなんとか見つけることができます。
ところが、第1巻だけはどうにも探せない。ご本人のホームページにも"Sold Out"の表記があり、ほぼ入手は不可能という状況です。第1巻には、ご本人が最も気に入っているD959が収録されているので、これを聴かないわけにいいきません。
さて、次は80年代終わりごろにDivertimentoというレーベルから3枚のCDが発売されていて、ここには2つの即興曲、楽興の時、3つの小品、いくつかの舞曲集が収録されています。
これも、ほぽ入手不可能。一部は目の玉が飛び出るような値段でマーケットに出ているのですが、さすがにその値段で手を出すことはできません。ご本人も手元には無いようです。
ただし、幸いなことにほとんどの曲は、後のシリーズで再録音しているので、ここは素直にあきらめて引き下がりましょう。
90年代終わりに、今度はCascavelleというレーベルから4枚のCDが発売されています。 2つの即興曲が再録音され、舞曲やソナタの一部と推定されている小品も含まれます。このシリーズは比較的あちこちのマーケットで常識的な値段で散見されます。
90年代前半から2009年までに、断続的に6枚のCDを断続的に発売したのがGlobeというレーベル。楽興の時、3つの小品の再録音を含めて、まだ録音をしていなかったものを大量に集めてきた内容で、特にD960も再録音しているんです。
興味深いのは、D960の草稿の演奏も収録しているところ。もちろん曲として完成しているわけではなく、あくまでも曲として成り立つまでの過程にすぎませんが、なかなか実演を聴くことが無いので貴重な録音と言えます。
最後に2007年の録音でVDE-Galloとのいうレーベルから1枚だけCDが出ていて、ここにはD840が収録されています。
D840は第2楽章まで完成していますが、第3と第4楽章は途中やめ。全体としては未完成のソナタなので、基本的には収録を避けてきたのかもしれません。でも、完成部分だけでも人気の高い作品ですから、おそらくこれを最後に収録したことで全集としての完成を意識したのかもしれません。
というわけで、最初のJecklinの第1巻とDivertimentoの3枚を除いて、何とか手元に揃えることができましたが、どうしても無くてはならないのがJecklinの第1巻。ついに、究極の奥の手を使いました。
なんと、レコードを買ったんです。LPレコードです。いゃぁ~、最後にレコードを買ったのはいつのことでしょうか。おそらく学生の頃でしょうから、たぶん30年ぶりくらい。
アメリカのマーケットで見つけて、悩んだ末カートに入れたんですが、何と海外発送はしていないと・・・そこで、しがない英語のメールを何度か送って交渉した結果、送料込み約1万円で手に入れることができました。
でもって、レコードなんてどうするんだい? と思われるかもしれませんが、安心してください、あるんです。実はレコード・プレイヤーがうちにある。
なんで今時そんなものがあるかというと、以前に手元に残っていた落語のレコードをパソコンに取り込むために購入したんです。aiwa製で、確か5000円くらいの安っぽいものですけど、今でもちゃんと使えるんです。
というわけで、「レコード盤に針を落とす」という昭和の匂いがプンプンするレトロな結末ですが、いろいろな意味で楽しめることになりました。