2016年4月10日日曜日

湿布薬


2年に一度厚生労働省が診療報酬点数の改定を行います。

改めて言うまでもなく、診療報酬点数とは保険診療を行う上での「定価」です。日本には国民皆保険制度があり、全国どこでもこの点数を基に全国一律に病院やクリニックを受診したときにかかる費用が決められています。

公費負担があって、生活保護の方や、重度障害の方、あるいはひとり親世帯の方などで自己負担が無い方でも、国や自治体などが自己負担分を肩代わりしているだけであって、無料で診療を受けれるわけではありません。

さて、今年の改定の年にあたり、4月1日から実施されていますが、整形外科診療所としては大きく変わったのは、いわゆる湿布薬と呼ばれる外用のパップ剤・テープ剤の処方に関する点です。

もともと歴史的に日本では「膏薬」と呼ばれる消炎鎮痛方法があり、それを簡易に行うための湿布薬が広く流布していました。これはメントールやハッカ成分により、皮膚の冷感点を刺激して痛みを緩和するというもの。

おそらく30年ほど前に、「カトレップ」という湿布薬が初めてNSAIDと呼ばれる消炎鎮痛の薬効成分を湿布薬の中に混ぜて発売しました。以後、湿布薬は様々な内服薬に用いられる消炎鎮痛成分を含有するものが主流となり、「内服薬に比べて副作用の心配が無い」という理由でその消費量は増加の一途をたどってきました。

しかし、その中には、一度に何枚も使用したり、何度も貼り替えたりする不適切な使用が現実に実態として多くあることは以前より問題として指摘されていました。自分のクリニックに通院されている患者さんでも、そういう使い方をしているという話はよく聞きました。

今までにも、できるだけ用法・用量を守るようにお話ししてきたつもりですが、医療費の中で湿布薬が占める割合が無視できない状況となっていることは間違いのない事実です。これからは、実態にそくした厳しい処方が求められています。

現実に、欧米ではもともと湿布薬は薬品としては認められていません。これは、薬効成分の血中移行があまり多くないためだと思われます。本来、皮膚は外界から体内を守るための強力なバリアですから、そう易々と薬が浸み込むはずがない。

例えば100mgの薬効成分を含む湿布薬で、使用した後の最高血中濃度は100ng/ml程度です。つまり、1mlの血液当たりに含まれていた薬効成分の1,000,000分の1が移行しているということ。これはどの湿布薬についてもほぼ同じ。

最近経皮吸収性の高いことが売りの湿布薬が新規に発売されましたが、一枚に含まれる薬効成分40mgに対して最高血中濃度は約750ng/mlです。従来のものより、格段の吸収性を認めますが、皮膚のかぶれなどの問題もかなり多くなっているようです。

湿布薬の中には、メントール成分を減らして、匂いを弱くしたものがあります。同じ患者さんに匂うものと匂わないものを使用してもらうと、匂う方が利くという意見を頂くことが圧倒的に多い。つまり、貼った時の「ジーンとする感じ」、「じわじわと浸みてくる感じ」などが「よく利いている」と感じさせる要因であるということです。

今まで散々湿布薬を処方していて、今更何を言っているとお叱りを受けるかもしれませんが、湿布薬については一定の効果は認めるものの、このような事情を十分に考慮して適正な使用を心掛ける必要があることをご理解いただきたいと思います。