2016年4月24日日曜日

カルト映画の巨匠


日本では「アングラ」という言葉が使われていましたが、社会の一般常識に反発する反体制活動のこと。表だって行動すると検挙されるような活動なので、地下に潜っているということで"under-ground"から来ています。

70年代の学生運動が象徴的なのかもしれませんが、その中で映画・音楽・小説などの文化面だけは、「カウンター・カルチャー」とも呼ばれ、若者を中心に熱狂的な支持をされるようになります。

アメリカでは、ベトナム戦争による影響で、反体制的な文化が花開いて、特に映画の世界では「アメリカ・ニュー・シネマ」と呼ばれるジャンルが確立しています。日本ではATGのような独立プロが、一連の作品を通じて、既成の概念に捕らわれることのない斬新な映画を発表しました。

最近では「サブカルチャー」という言葉で呼ばれるのは、アングラだったもののに熱狂的なファンが発生して、反体制的なとんがった部分は消え去り、どちらかというと趣味的な範囲に収まっている場合が多いのかもしれません。「オタク」は、そういうサブカルチャーを喜ぶファンの側に対する呼称でしょう。

「カルト」というのは、もともと宗教的な崇拝・礼拝という意味です。しかし、一般的には特定の人物だけを崇拝して、その人物が決めた正義を信奉する反社会性の強い、ある種の宗教集団に対して用いられます。

そこから、興業的には失敗したにもかかわらず、一部の熱狂的なファンが存在し続ける映画を「カルト映画」と呼ぶわけで、一般常識の中だけで見ていると、何が言いたいのかわからないようなものが多く含まれてきます。

しかし、カルト映画と呼ばれる作品の中には、社会の変化とともに広く一般にも認知されるようになって、「時代を先取り」した名作映画として、アングラなものからメジャー作品へと評価が昇格したものもたくさんある。

長い前置きですが、要するに書きたいことは、スタンリー・キューブリックという映画監督は、誤解を恐れず一言で言うとカルト映画の巨匠だということです。

キューブリックの映画監督としての経歴は、前半と後半に大きく分けられ、前半は映画技術を学んでいく習作が並び、後半は名作と評価されキューブリックを巨匠と呼ぶに相応しい作品群で埋められます。

名作とされる作品群も、興業的には必ずしも成功しているとは言えず、発表当時は賛否両論が多数あったものばかり。しかも、コメディ、SF、ホラー、歴史、戦争という具合に、同じジャンルの作品はありません。

恵まれない習作時代には、できるだけ自分でできることは自分でするしかなかったために、映画に支配されていたわけですが、後半は自ら映画全体を支配するようになり、どんな内容でもキューブリックのカラーが確立されている。

特に内容をわかりやすくする説明調の場面を、極力排除していき、観客側の感性を刺激する。そのために、細部にこだわり、ひとつの場面でも隅から隅まで監督自らの意思を貫く姿勢が、熱狂的な支持者を生み出した大きな要因です。

社会的に受け入れられるようになったものは、もはやカルト映画では無いという考え方もあるかもしれませんが、窮屈に考えるなら、本当のカルトは世間一般には語られることは無く、一部で噂程度に話されるようなものでしょう。

キューブリック作品は、発表当時には大きな賞はほとんどもらえていませんが、死後、現在までにこれだけ議論され続ける映画監督は稀有な例と言えます。まさに、そこがカルト映画の巨匠たる所以ではないでしょうか。