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2016年4月19日火曜日
KUBRICK / 非情の罠 (1955)
元のタイトルは"KIller's Kiss"ですから、直訳すれば「殺し屋のキッス」とでもなるんでしょうか。いきなりで何ですけど、原題も邦題にしても、ちょっとずれてる感じがしますが、何にしてもキューブリック本人が"公認"する処女作です。
1953年に公開された、真の劇場用長編映画の処女作は「恐怖と欲望」で、実質的な利益はほとんど生みませんでした。キューブリックは、学生並みの作品としこの作品を封印してしまいました。
1954年に、何とか資金を調達したキューブリックの「非情の罠」の撮影に入ります。ここでも、まだ駆け出しの若い映画監督は、必要に迫られて一人でいろいろな仕事をこなしました。
しかし、そのためにいろいろな問題も引き起こしています。ニューヨークの街中での撮影を許可をとらずにゲリラ的に敢行したり、録音を失敗して台詞だけでなく効果音もアフレコするはめになったりしました。
主演女優からは、最後に考えていたラブ・シーンを拒絶され、さらにアフレコも拒否され別人の声で仕上げなければならなくなります。
当時、アメリカではフィルム・ノワールと呼ばれる映画のスタイルがはやり始めていました。これは、一癖も二癖もある屈折した主人公による重苦しい雰囲気が漂う犯罪ドラマのこと。本作や次回作は、まさにフィルム・ノワールと呼ぶのにふさわしいかもしれません。
往年の勢いが無くなったボクサーが、窓越しに隣のアパートに住んでいる女性に恋をします。この女性は、家族との過去の重荷を背負っているダンスホールのホステスで、ホールのオーナーは彼女に恋をしていて、執拗に迫ってくる。
二人はそれぞれの環境から一緒に逃げ出すことにしたのですが、オーナーは主人公を殺すように手下に命令しますが、手下は別人を殺してしまい、彼女も誘拐して監禁します。
出だしの、もともと知り合いではない男女が、窓越しに行動が次第にシンクロしていくあたりは面白い。次第に二人が深い関係になっていくことを、うまく構成しています。
女性の身の上話の間、バレリーナだった姉の踊っているシーンが延々と続くのはかなりテンションが下がります。基本的に、女性の「負い目」はストーリーには直接関係ないので、もう少し簡単でよさそうです。
それにしても、全体の時間がわずか三日間というのは、展開がいきなりすぎてついていけない感じがします。また、悪人のオーナーが、ギャングの親分ならともかく、ちょっと小物すぎ。いきなり手下を使って人を殺すくらいの人物なのに、女性に対する口説き方はみみっちい。
主人公も衰えたとはいえ現役のボクサーにしては、簡単に殴られて倒されたり、どうも腑に落ちない。ラストの追っかけっこでも、手下が飛び降りたときに足を痛めて脱落。とにかく突っ込みどころはたくさんあります。
ちよっと気になったのは、試合に負けた主人公を気遣うのが、田舎の伯父さん。毎月手紙もくれるようだし、わざわざ電話もしてくる。これはキューブリック本人に、資金援助をしてくるの親類に敬意を表しているのかもと思ってしまいます。
まだまだ巨匠としての風格のある映画作りができるようになるまでには、20代の監督には無理がありそうです。やはり、部分的に将来につながる「らしさ」を探して楽しむのがいいかもしれません。