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2016年4月18日月曜日
KUBRICK / 恐怖と欲望 (1953)
1928年、マンハッタン生まれのスタンリー・キューブリックは、人種の坩堝と呼ばれるニューヨークで、少年時代を過ごしました。ここで、アーティスティックな感性を研ぎ澄ましていったことは容易に想像できます。
1945年に時の大統領であったフランクリン・ルーズベルトが、第二次世界大戦の終結目前に死去し、キューブリックは写真雑誌LOOKにルーズベルトの死に関する写真を認められ、わずか17歳にして見習いカメラマンとして採用されました。
1948年、二十歳にして「ボクサーの一日」の組写真の企画をまかされたキューブリックは、あきらかにこれをもとに映画化への興味を持ち始めます。
1951年、それは「拳闘試合の日」と題された16分間の白黒映画として日の目を見ることになります。制作、監督、脚本、撮影、録音の五役をキューブリックが行ったのは、もちろん経済的事情が大きかったのだろうと思います。
しかし、後に映画にまつわるすべてを厳格にコントロールすることで有名だった、キューブリックの映画作りの本質がここにあるのかもしれません。何とかRKOに映画を売ることができたキューブリックは、LOOKを退社し正式に映画作家としてスタートしたわけです。
続いてRKOから任されて「空飛ぶ牧師」という8分の短編、翌年にはアメリカ労働連合大西洋湾岸地区支部からの依頼で「海の旅人たち国際組合」の宣伝映画の製作します。
いずれも、自らの企画ではないだけに、内容的には見るべきポイントはありません。キューブリックがプロとして、映画製作の一連の過程を学ぶ練習台にはなったのかもしれません。
これらと同時に撮影が始まっていたのが、「恐怖と欲望」とタイトルされた長編映画でした。キューブリックは、経済的な理由により、フィルムの一コマも無駄にしないように、事前に全体の構成を計算しつくしていました。それでも、予想以上に出費は膨れ上がり、親類からの援助のみならず、前述のような雇われ仕事を淡々とこなすことになります。
映画の内容は、架空の国同士の戦争の中で、敵地内に墜落した飛行機から自陣に生還しようとする4人の兵士の話です。そこに、恐怖と欲望があり、その葛藤の中でそれぞれにいろいろな形の結果を作り出すというもの。文明人であるはずの者たちが、戦争と言う状況下ではそれを忘れ、一度変わってしまうと元には戻れない。
確かに、ネットなどでも言われているように、説明調の台詞が多く、観終わっても特に「傑作」と思わせるほどの内容とはいい難い。しかし、台詞を使わず俳優たちの目や手の動きだけをアップにしていくシーンは、キューブリックらしさみたいなところがあって興味深い。
キューブリックは、批評家たちの比較的悪くない評価に関わらず、この作品を「映画学校の生徒レベル」と自ら判断して、可能な限りのフィルムを買い戻し封印してしまいました。ですから、1999年にキューブリックが亡くなった時点では、この作品を一般人が観ることは不可能と考えられていたのです。
それがどういう経緯で2011年に公開され、そして翌年にDVDが発売されたのかはわかりません。少なくとも、キューブリック・ファンとしては、内容的にはあまり得るものはなくても、キューブリックの原点を確認し、後の「完成」作品をより楽しむための一過程としての意義は認めざるを得ません。