2022年1月10日月曜日

12人の優しい日本人 (1991)

日本にはこの映画の時点では陪審員制度もありませんし、裁判員制度も始まっていません。これは「十二人の怒れる男(1957)」に触発されて、もしも日本の裁判に陪審員の仕組みがあったらという三谷幸喜が書いた舞台劇(1990年初演)を映画化したもの。監督は、日活ロマンポルノ出身の中原俊。

陪審員1号 塩見三省
 陪審員長。有罪とする責任から逃げたい。
陪審員2号 相島一之
 妻と別居中の会社員。「話し合いがしたい」と言って強硬に有罪を主張。
陪審員3号 上田耕一
 喫茶店経営。アル中で議論や会議が苦手。
陪審員4号 二瓶鮫一
 元信用金庫職員。何となく無罪という意見を変えない。
陪審員5号 中村まり子
 独身OLで、几帳面なメモ魔。
陪審員6号 大河内浩
 セールスマン。仕事が気になりやる気がない。
陪審員7号 梶原善
 職人。気性が荒く、被害者を嫌悪する気持ちから無罪を主張。
陪審員8号 山下容莉枝
 若い主婦。優柔不断で意見は二転三転。
陪審員9号 村松克己
 歯科医。議論好きな自信家で、議論のために有罪説を展開する。
陪審員10号 林美智子
 クリーニング店経営者。気が弱いが、何となく無罪を変えない。
陪審員11号 豊川悦司
 役者。 最初は無関心だったが、途中から弁護士と称して無罪に味方する。
陪審員12号 加藤善博
 スーパーの課長。仕切りたがり、合理的な考え方をする。

何ともあっけない始まり。陪審員として集まった12人。じゃあ、最初に被告人が有罪か無罪かで決を採ると、全員無罪ということで会議は終了(怒男ではヘンリー・フォンダ一人を除いて有罪)。ちなみに、事件というのは21歳の女が復縁を迫る元夫を突き飛ばしてトラックに轢かれて死亡させたというもの。

・・・と思ったら、2号が「話し合いがしたい」と言い出し、有罪を主張。やたらと議論を吹っかけてくるのです。いろいろとぐちゃぐちゃな議論の末、被告人には殺意があった可能性が出てきて、有罪と無罪が6対6で同数になってしまいました。無罪派は被告が可哀そうとか、若くて綺麗だからとか、死んで当然の男だからとか、人情論・同情論で譲らない。

結局、殺意ありだと計画殺人で場合によっては極刑もあるので、有罪派は殺意があったことは忘れるから、無罪派は傷害致死での有罪で妥協してくれということになります。ところが、4号と10号だけがどうしても無罪と言い張り、その根拠は・・・無い。しかし、それまで無関心だった弁護士だと名乗る11号が、急に有罪の根拠を崩し始めるのです。

当然「怒男」のパロディ的な側面が多く、三谷幸喜らしいひねくれたシュールな笑いが随所にみられる作品です。当然、元々舞台用ですし、ほとんど会議室の中だけの会話劇ですが、元ネタと相反するような展開を見事に作り上げた脚本の良さは認めないわけにはいきません。

とはいえ、2号が一人有罪を強く主張し、次から次へと無罪派の根拠が曖昧であることを指摘していきますが、有罪を主張する側にも確固たる根拠は無いというところを誰も指摘しません。結局最後のオチみたいな所に持っていくためにあえて触れなかったのかもしれませんが、そこが見ていてイライラする感じがします。

今では11号の豊川悦司だけが主役級ですが、その他の出演者は力を持ったバイプレーヤーばかりで、映画と演劇の中間地点での落としどころを良くわきまえたセリフ回しが素晴らしい。演劇を目指す方にはとても参考になる演技ではないかと思います。