2022年1月13日木曜日

ア・フュー・グッドメン (1992)

法廷物と言っても、ちょっと毛色が違う映画です。これはアメリカの軍事法廷の話。アメリカ軍内部での司法は、一般の物とは独立したものですが、同じような仕組みがある。

軍内での犯罪に対してはMP(Military Police)が捜査・犯人逮捕までを行います。軍の中の法務部に検察と弁護を担当する係がいて、軍事法廷で裁きを決定します。そこには軍関係者からなる裁判官と陪審員もいる。

主演のトム・クルーズにとっては、演技派俳優として成長の過程における重要な作品の一つであり、共演した名優ジャック・ニコルソンから多くのことを学ぶ機会を得た映画となったはずです。

監督はスマッシュ・ヒット作が多いロブ・ライナーで、脚本はアーロン・キーソン。元々はキーソンの書いた舞台劇が原作。アカデミー賞の多くの部門にノミネートされましたが、イーストウッドの「許されざる者」に敗れ残念ながら受賞は逃しました。

キューバの海兵隊基地でリンチによる殺人が発生し、表向きは禁止されている体罰を意味する「コード・レッド(Code R)」が発令されていました。犯人として逮捕された二人の兵士は、上官からの命令に従ったもので、海兵隊としての義務を履行したと主張します。

彼らの軍事裁判で弁護士に任命されたのは、海軍法務官であるダニエル・キャフィ中尉(トム・クルーズ)で、補佐にはジョアン・ギャロウェイ少佐(デミ・ムーア)がつくことになります。キャフィは事前の司法取引ばかりで、実際の法廷に立つ経験はありませんでしたが、有能な弁護士だった故人である父親に対する対抗心がありました。

キューバに飛んだキャフィーらは、基地の司令官、ネイサン・R・ジェセップ大佐(ジャック・ニコルソン)と面会しますが、彼は軍に対して誇り高く、兵士を強くするために神のような存在となっていました。

裁判が始まり、検事側のジャック・ロス大尉(ケヴィン・ベーコン)の巧妙な進行に苦戦します。ジェセップの副官であるマーキンソン中佐がコード・レッドを隠蔽する工作をしたことをキャフィーらに話しますが、彼は証言前に自らの責任を死をもって償います。

切り札の証人を失ったキャフィーはついにジェセップ大佐を喚問する決意をしますが、上級士官に偽証の疑いをかけることは自らも軍事裁判にかけられる危険もはらんでいました。しかも、証拠はすべて消されていて、ジェセップ大佐にコード・レッドを発令したことを自白させるしか方法は無いのです。

主演は確かにトム・クルーズなんですが、ジャック・ニコルソンの存在感たるや半端ない。法廷の扉が開き、ニコルソンが入って来ただけで、画面に物凄い緊張感が走るのはさすがです。実際、本読みでも全開の演技で共演者をびびらせたらしい。最終対決での「お前に真実などわからん!! (You can't handle the truth)」は名セリフとして記憶されています。

元は舞台劇ですが、ここでは映画として屋外でのロケもあり、野球好きのキャフィーが度々グランドにいたり、キャフィーらの作戦会議が彼のアパートだったりと場面転換をうまく使っています。裁判の緊迫するシーンとのバランスがうまく取れていて、大変重たいテーマの映画ですが窮屈感を軽減しています。

一つ、当たり前ですが驚いたのは、本編終了時に「The End」と画面の真ん中に表示されたこと。70年代くらいまでは、スタッフ、キャストは冒頭に紹介され、最後に「The End (フランスならFin、日本なら完または終)」が表示され終了が普通でした。最近のように、本編終了後に延々とスタッフ・ロールが流れる(10分近いものもある)ことはまずありませんでした。この映画では「The End」の後にスタッフ・ロールもあるので、何か特別な意図があるのかもしれません。