アルカトラズ・・・サンフランシスコ湾のなかにある小島で、連邦政府刑務所があったことで有名です。禁酒法時代に整備され、アル・カポネなどの有名な犯罪者が収容されたことでも有名で、周囲を流れのはやい潮流で囲まれた小島は自然の要塞と化し、脱獄不可能と言われていました。
しかし、1963年に閉鎖されるまでに、14回、延べ36人が脱獄を試み、23人は拘束、6人は射殺、2人は溺死、そして5人は行方不明(おそらく溺死)とされています。
クリント・イーストウッドが演じた「アルカトラズからの脱出(1979)」では、ほぼ事実に基づいた1962年のフランク・モリスの脱獄が映画化されています。もとから施設の維持費用が他の刑務所に比べて高い事などが問題視され、モリスの脱獄により、施設の老朽化などが明らかになり閉鎖に至ったとされています。
強盗、殺人などを繰り返していたヘンリー・ヤングは、1933年にアルカトラズに収容され、1939年1月に脱獄の失敗により22か月間の独房収容となり、独房から出された1940年12月に脱獄の仲間だった囚人を刺殺しました。ヤングの裁判により、アルカトラズにおける非人道的な囚人の扱いが明らかになりました。
この映画はヘンリー・ヤングをモデルとし、マーク・ロッソが監督した、映画冒頭に示される自称「真実の物語をもとにしている」ストーリーです。自称としたのは、ヘンリー・ヤングのキャラクター設定を、あからさまに観客が同情できるように改変していることによります。
映画ではヘンリーはたった5ドルを盗んだだけで収監されたことになっていて、脱獄失敗後に3年半の間独房に入れられたことになっています。そして殺人罪の裁判で事実上の勝利(傷害致死罪)を得るのですが、絶望のアルカトラズに戻されたことで(おそらく)自殺してしまいます。
ヘンリー・ヤングはたった5ドルを盗んだだけではなく、銀行強盗もしているし殺人も犯している。独房に入っていたのは22か月(それでも長いですが)、そして裁判の後は別の刑務所に移され後年保釈されています(Wikipediaより)。フィクションとして多くの非人道的な扱いに屈することが無い人間のストーリーならばわかりますが、明らかに「事実に基づく」とすることで、より大きな感動を呼び起こそうとする作為は反則です。
それでも感動のストーリーとして絶賛する声も理解できますが、話を作り過ぎという気持ちはかなり興味をそがれることも否定できません。ただし、ヘンリー・ヤングを演じたケヴィン・ベーコンの熱演は見事で、彼にとっても代表作の一つに数えることができるものだろうと思います。また、囚人を苛め抜くグレン副所長を演じたゲイリー・オールドマンのサディスティックな演技も凄まじい。
もっとも、この映画の見所はヤングの裁判を通して、アルカトラズの囚人に対する虐待行為を告発することにあります。ヤングの弁護士となったジェームズ・スタンフィル(クリスチャン・スレーター)は、ある意味政府の犯罪を明るみにしようとしているので多くの妨害を受けることになります。ヤングとスタンフィルの間にはしだいに友情のようなものが芽生えてくるのですが、事実がどうだったかは判断できません。
この事件は、世間がこの刑務所に疑惑の目を向けるきっかけにはなったかもしれません。しかし、実際この事件のあとモリスの脱獄まで20年もアルカトラズは刑務所として使われたわけですから、映画的にこの事件が閉鎖に追い込んだという見方に誘導するような終わり方にも問題があるかもしれません。