2008年2月17日日曜日

今、医療の何が問題なんだろう

今日のあざみ野棒屋先生のエントリーでも触れていましたが、4月からの診療報酬改定の骨子が公表されて、直接経営者を兼ねる開業医にとっては大いる関心を払わずにはいられません。Dr.Mもさらに先まで見ながら日々の診療をしています。昨今の一般の医療についての関心事をまとめてみました。ただの新米の平開業医の考えることですから、間違いや不足があれば指摘していただけれは幸いです。

①産科と小児科を中心とする救急医療への不安

産科医師・小児科医師の減少が現場の医師への過酷な労働を強いていることが問題とされており、ここ数回の診療報酬の改定はこれらの科の収入を増やすことに重点がおかれてきました。今回もその流れの中にある改定となるようです。

しかし、いくら収入を増やしても、過酷な条件での仕事をしていることには変わりはありません。そこには③にも関係してくる、100%の成功を求められる法的な厳しさが上乗せされていると考えられます。何故医師が少なくなったのかという根本的な理由については、あまり触れられませんが、まさに少子化が最大の原因であると言わざる得ません。

これは自分たちが研修医であった80年代から言われていたことであって、こどもが減るから産科や小児科医になってもしょうがないというようなことが言われ始めていたのです。厚生行政は少子化を抑制していく抜本的な対策をもっと強力に推進すべきではないでしょうか。出産の高齢化など書きたくなることは山ほどありますが、このくらいにしてしておきます。

②高齢化社会に向けての医療供給への不安

勤務医の「過酷」な勤務に対する同情はいいとして、「昼間しか働かない開業医」への批判が出ていることは開業医としては無視できないところです。少子化を食い止めることができたとしても、高齢化社会がむこう数十年は進むことは避けられそうにありません。

そこで厚生行政が今やっていることは、高齢者に対する医療費の抑制政策ということになります。しかし、必要になるのがわかっているのですから、他を削っても高齢者対策に財源を充てるべきではないでしょうか。介護保険制度も医療費抑制の一環として始まったわけですが、結局実質的な自己負担増と変わらないし、むしろ医療と分離したことによって医療の介入を大変難しくしました。

さらに国は高齢者の在宅への誘導を計っています。在宅の高齢者が増えたときに、必要となる医者は開業医です。勤務医は基本的には出向いていくことはありません。ただし夜間・休日に働けといわれても、薬局・検査会社・その他の関係業種すべてが夜間営業にシフトしてくれて、かつ夜間に働きたいスタッフを集めることができなければできることは非常に限られてしまいます。社会全体がその方向性に同調して動かなければ、今度は開業医が「たらいまわし」をすることになりかねません。

また、保健所などと協力して目立たないところで予防接種や健診などの日常的な医療を支えているのは開業医です。これらに対する協力の余裕がなくなると保健行政は崩壊します。つまり、開業医と勤務医のどちらかがいいとか悪いとかではなく、役割分担を明確にすることが必要なのではないでしょうか。

かぜの患者が病院を受診するようなことがないように、病院でかぜと診断された場合には2倍の値段がかかるとか、紹介状のない病院の受診は3倍になるとか、そして入院の必要のない救急車の要請に対しては実費を徴収するなど。ただし、診療報酬に差をつけても効果は期待薄で、自己負担割合を施設の規模によって変えるような形が必要かもしれません。その分開業医は在宅の高齢者や、プライマリー医療をしっかりと担い、病院に救急をやる余裕を作ってもらう。もちろん、一定のルール作りが大変難しいことは想像できますが、根本的な議論が広くされているとは言えないと思います。

③薬害問題への不安

エイズ、肝炎問題は言うに及ばず、良好な結果が得られなかった医療への不満は医療界にとって大きく受け止めなければならない問題です。確かに、自分たちは最高の治療効果を出すために最大限の努力を行う義務があります。また、そのためにはできる限りすべての人とのオープンな情報の共有が必要です。しかし人間の個人ごとの差は歴然としているわけで、数学的な一定の効果を導き出すことは不可能なのが医療です。

この点を十分に理解することが必要で、現在わかっているbenefitとriskの両方を熟知しなければなりません。この点では、もっと統計学的な理論を勉強することが必要です。近年いわれているEBM(統計学的推論に基づいた医療)も、このような観点から重視されてきています。

と、まぁ難しいことは考えても、自分はただの医者ですから、具合の悪い人を診て何とかすることができるだけで嬉しいわけで、それが来院した人でも在宅の人でもかまいません。ただ、家族がいますのでこどもたちを、安心して大学にいかせるくらいの、そして時にはかみさんと旅行くらいできるくらいの収入と休みだけは欲しいと思うわけです。ふぅ~。

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