2008年2月11日月曜日

恋のなる木


私はショッピングが大好き。でも、本当に買い物ができるのは、給料日の後と、ボーナスの時だけ。あとは、お店をみて回っているだけ。だいたい仕事が忙しすぎて、出掛ける暇もめったにないし。実際に買うのも、結局いろいろ考えて値段の安いもので妥協してばかり。そのうち出逢う人との結婚に備えて、少しでも貯金もしておかなくちゃ。

今日は、会社の帰りにいつものショッピングモールへ寄ってみよう。バレンタインのチョコレートを用意しておかないと。それに、そろそろ春になったら着る服をみておきたいの。流行を少しは気にしていないと、そのままおばさんになってしまうもの。

あら、この前まで改装工事をしていたお店が、新しくなつてオープンしているわ。前は、ちょっと若い子向けのカラフルな洋服を並べていたけど、今度は違うのね。新しくできたのは雑貨屋さんだわ。けっこう古めかしい雰囲気だけど、ちょっときれいな感じだし、面白そうね。開店したばかりの割にはお客さんはいないのかしら。店員さんはひとりだけだけど、ちょっとどんなものがあるのか見ておきたいわ。

まぁ、ほとんどは、どこにでもありそうなものばかり。あら、そこの棚の上には、小さな鉢が並んでいる。ミニバラとか、コニファーとか、ちょっと机に飾っておくのにいいかもしれないわ。一番隅の見たことがない小さな木は何かしら。札がついていないから、どんな植物かわからないわ。手に取ってみると、意外と重たいわ。ホッドの裏に紙が貼ってあるのね。へぇー、恋のなる木ですって。本当にそんなのがあるわけないけど、ちょっと葉っぱがかわいらしいし、値段もてごろだから、買って帰りましょう。職場の机に置いておくのにちょうどよさそうだし。


それにしてもずいぶんと不思議な名前をつけものだわ。それに、どうやって育てればいいのかしら。もちろん、水はあげないとね。肥料はどうすればいいかしら。ネットで調べてもわからないし、植物の本を見ても出ていないもの。いずれにしても、大切にしてあげるしかないわよね。

仕事をしていても、ついつい恋のなる木を見てしまうわ。いったいどんな実がなるのかしら。隣の席の後輩にはめんどうだから説明はしていないの。だって自分でもよくわからないし、あまり夢ばかり見ているように思われるのも嫌だもの。少し水をあげておこうかしら。

でも、こうして見ていると、何となく心が休まるわ。いろいろなことを思い出すわ。そういえば就職してすぐの頃、大きな失敗をして先輩に一杯迷惑をかけたなぁ。あの時は、同期の彼が一緒に謝ってくれたっけ。大学のサークル以来の知り合いだから、いろいろ助けてくれるのよね。それからは大きな失敗はしたことがないわ。

この前はチョコレートを買っておくのを忘れてしまったから、今日は昼に出掛けてこようかしら。そうそう肥料も少しは用意しておかないとね。そういえば、親があんまりうるさいからお見合いをしたこともあったわ。ずいぶん昔のような気がするけど。友人はたいてい賛成してくれたのに、なんでお付き合いしなかったのかしら。仕事が楽しかったから? 相手がイケメンじゃなかったから? いえいえ、違うわ。彼が私には向かないと言ったのよ。昔からの知り合いだから、けっこう私のことをわかっているのよね。

このマンションに住むようになってから、もう何年にもなるわ。こうしてみると、仕事ばかりで、部屋の中は何にも変わっていないわね。ずっと一緒のカーテン。変わらない机と椅子。ベッドの周りも同じだわ。もしかしたら、空気すら変わっていないのかもしれない。こんなんでいいのかしら。今までは疑問に思ったこともないけど、これが充実しているってこと?

あら、そういえば、棚の飾り物の小物だけは増えているのよね。私のお気に入りのガラス細工とか、素焼の人形とか。毎年誕生日の頃になると増えてきたのよね。何となく仕事場の机においてあるのよね。彼が出張先で見つけたからとか、たまたまもらったからとかというメモ書きがついていたわ。

今日の仕事は大事なクライアントとの打ち合わせ。机の木には少しだけ水を足して、書類を束ねて忘れ物がないかチェック。時間にうるさい相手だから、だいぶ余裕をもって出発しましょう。電車とバスを乗り継いで相手の会社に出向いて、15分前に到着。会議室で待っているうちに、もう一度プレゼンテーションの確認をしておこうかな。資料はこれとこれ。そして外国での情報はこれ。それと、相手からの要望にそったサンプルは・・・あら・・・大変! かばんの中に無いわ。忘れてきてしまたのね。そうだ、昨日上司に確認のため渡してそれっきりだったのよ。あー、どうしましょう。あれを見せられないと、今日来た意味はほとんどないじゃないの。今からじゃ会社に戻っている時間はないし。あら、受付の人が入ってきたわ。えっ、私に? お届け物? まあ、今日使うサンプルだわ。見慣れた文字のメモがついているわ。たまたま通りかかったら、ですって。

また、木に水をあげながら、いろいろ考えてしまうわ。そういえば、自分は今までどうだったの。学生の頃は、確かに一緒にいることが楽しかったし、同じ会社を希望したのも、一緒にいる時間が欲しかったからだわ。でも、仕事が面白くなって、だんだん生活が仕事中心になったのよ。この木を見ていたら、いろいろなことが思い出されるのだけど、けっきょくいつも思い出されるのは彼とのエピソードばかりだわ。

彼がいつも私を見つめていたから? いえ、違うの。やっとわかったわ。私が、いつも彼を見ていたからなのね。そうだ、学生の頃のように手作りチョコを作ってみようかしら。この木はいろいろなことを思い出し、そして考える時間を持つことが、とても大事なことだと教えてくれたわ。あら、小さな赤い蕾がついている。

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