2008年10月26日日曜日

合併症の話

先日のエントリーで、誤解されやすい医療用語のことを書きましたが、「合併症(がっぺいしょう)」という単語もその中の一つ。

病気の進行の過程で、偶発的に起こる問題で患者さんに不利益が生じるものを合併症というわけです。

例えば、関節リウマチの患者さんで、頸椎(けいつい、首の骨)が不安定になって手足の麻痺が生じるような場合や、指を動かす筋肉の腱が切れてしまうような場合がリウマチに伴う合併症と呼ばれます。

医者は少しでもそういうことが起きないように治療を進めていくわけですが、薬の効き目の弱い方や、過度の負担をかけたりすれば防ぐことはできないことがあります。

このようなことは、医者が積極的にきっかけを作っているわけではありませんから、あまり問題になることはありません。しかし、治療の過程で行った行為が合併症を起こすきっかけになった場合は、いろいろと問題が出てくることがあります。

一番わかりやすいのは手術でしょうか。手術では皮膚を切って、いろいろな操作をするわけで、どんな手術でも皮膚の傷が必ず残ります。また、術中の出血と術後の感染という問題も避けて通ることはできません。

すべての出血を止めていたら、手術は延々と時間がかかり、かえってリスクが増大するでしょう。またどんなに消毒をしても、体を痛めない範囲の消毒では完全な無菌状態を作り出すことは不可能ですから、必ず一定の確率で手術部位の細菌感染が起こるのです。

手術をしなければ患者さんには不利益が生じると考えるから、手術という選択肢があるわけですから、あとは手術のRISKとBENEFITのバランスが重要ということになります。

もちろん手術をするのも人間、されるのも人間です。どちらもファジーな存在ですから、工場のラインのように一律の品質を保証することはできません。

医者はできるだけ合併症を起こさないように、しっかりと勉強しなければなりません。当然、熟練するほどRISKは減らせることが多いわけです。ですが、このような「合併症」と「医療ミス」というものとの境界が大変不明瞭なのです。

医療ミスは、医療を行う上で、知っているべきことを知らなかった、すべきことをしなかった、やってはいけないことをやったという状況で患者さんに不利益が生じた場合に発生します。

しかし、知っているべきこと、すべきこと、やってはいけないことというのは、医療の進歩によって年々変わっていくのです。一般世間の話でも、以前は常識だったことが今は非常識であることは珍しくありません。結局、ミスというものは時代の価値観が決めることなのです。

ですから、医者は患者さんと同じ価値観が持てるように努力しなければならないと思います。つまりは、説明です。患者さんが納得するまで、しっかりと説明することが、合併症と医療ミスとをしっかりと区別するために重要なことになります。


ですから、この価値観の共有をする時間の少ない救急医療は一番難しい。特に産科の手術などはほとんどが救急医療であるわけですから、普段から「もしも」の話をできるだけしておくしかないのかもしれません。そこが、飛び込みの患者さんを嫌がる大きな理由になっているのでしょう。