「マイルスを聴け」は、スイング・ジャーナル元編集長だった中山康樹の大ヒット・シリーズの書名。自分がこの本を知ったのは2001年版で、改訂第5版というもの。
その後も、2年ごとくらいに改訂版が出され、第6版と第7版は続けて購入。しかし第9版はスルーして、もういいかなと思っていたのですが、今年第9版が出されて、ついつい買ってしまいました。
そもそも、これがどういう本か説明しないと話がわからない。つまり、これはジャズの帝王マイルス・デイビスの完全ディスコグラフィを目指した本であって、マイルス・ファンにとっては今や聖書に匹敵するほどの価値がある。
そもそも1992年、マイルスが亡くなった翌年にはじめて刊行されたのですが、最初は単行本のシリーズだったのが、だんだん分厚くなってきたためか、2001年からは文庫サイズになりました。しかし、2009年の前バージョンでは、ページ数1172という驚異的な量になり、今回ついに分冊ということになったのです。
なんで、そんなに改訂版が出続けるか・・・それはブートレグ、海賊版がマイルスの死後怒濤の如く出現しているからなのです。もうそれは、マイルスの大量に行ったツアーのすべてが出てくるのではないかという勢い。
それでも、20世紀のうちはオーディエンス録音の、いかにも海賊版らしい音質のものが出回っていましたが、21世紀になるとサウンドボード録音、つまりライブの音量を調整するミキサーからの直接の出力を記録した物が出てきた。
これは、もうオフィシャル並の音質ですから、マニアならずとも聴くべき演奏がたくさんあるわけです。なかには、完全未発表のスタジオ・テイクもあり、特に発売寸前で中止になったアルバムの音源などはファンとしては垂涎のアイテムです。
そんな状況ですから、中山氏もいつまで立っても本が完結できないわけで、ついにバージョン9まできてしまったというわけ。今回は1945年から1967年までの主としてアコースティク期に的を絞ったもので、しかも初めてオールカラーという内容。
さすがに、最近はもう出尽くした感があって、新しい音源はあまり見かけなくなってきました。ですから、おそらく中山氏としても、没後20年を期に総仕上げにかかっているのでないかと思うわけです。
そうだとすると、エレクトリック・マイルスとなった1968年からColumbia時代の1985年までをPart 2として、ワーナーに移籍して新境地を開いた1986年から亡くなる1991年をPart 3とするのが、量的にも適当なのでしょうか。
しかし、あとがきで「分冊の一冊目にあたる」としながらも、後が続いて出るかは現段階では未定としている。まぁ、やりかけたなら他のつまらない本を量産する暇があるんだから、何とか完成してくださいよ。
何にしても、今なおマイルスのファンが存続できるのは、この本のお陰ということは否定できないわけで、ずいぶんと迷惑な・・・いえいえ、ありがたい本なのであります。