2013年2月5日火曜日

リウマチ薬の全例登録

日本の医薬品の歴史で、特異的だったのが関節リウマチ治療薬として1999年に登場したリウマトレックスという薬。

通常の医薬品は、動物実験 → 健康な人への投与 → 実際の病気の人への投与という3段階の治験を行った上で、厚労省に認可申請され半年から1年くらいかけて効果と安全性を審査された上市販されます。

 それまでは、市販されると医師は一定の用量・用法の中で自由に使えるわけで、特に使用に際して特別な制限はありませんでした。

リウマトレックスはもともと抗がん剤として使用していたメソトレキサートという成分で、当然副作用については深刻な物が出てしまう可能性があり、誰もが勝手に使える状態は大変に心配されたのです。

そこで、製薬会社は必ず製品説明を行い「確かに説明を聞きましたよ」という内容の書面に医師の署名を求めたのです。これは画期的なことで、ある意味副作用のような問題は使った医師の側に相応のリスク分担を求めたということでしょうか。

次に登場した2003年のレミケードという本邦初の生物学的製剤では、署名だけではなくさらにリウマチを専門的に扱っている医療機関に限定し、その上使用する患者をすべて登録して効果・副作用をしっかりと調査することになりました。

市販後にもかかわらず、ほとんど治験の続きとも言える扱いに、医師は最初は戸惑いました。しかし、現実の治療の中では治験だけではわからないデータがいろいろ出てくるにしたがって、このような全例登録というシステムが、安全に薬を使っていく上で大変役に立つことがわかったのです。

 続いて2005年に登場したエンブレルでは、使用は専門医に限るという制約まで追加され、より厳しい条件が付加されたのです。その後に登場する、ヒュミラ、アクテムラ、オレンシアという生物学的製剤についても同様の扱いがされ、ある意味医師・患者双方にとって安全の担保となったわけです。

ところが、昨年登場したシンポニー、そして今春発売されるシムジアという生物学的製剤については厚労省からの全例登録の義務が課せられていません。これはどういうことでしょぅか。

実際には、製薬会社が独自の判断で登録制度を運用することになっています。ただし、公的な義務がないことですから、より緩いシステムになることは避けられません。

関節リウマチ治療では、21世紀になってから急激な変革が続いており、変形をきたすことも少なくなり、正直言って外科的な要素・・・つまり手術を必要とすることは少なくなっています。そして、呼吸器系の合併症の問題や、最近ではウイルス性肝炎との関係も把握しなければならず、内科的側面が強まっています。

公的な全例登録が無くなって、より広く薬を使えるようになり製薬会社はバンザイでしょうし、患者さんも特定の施設でなくても治療を受けられるようになるのは一見いいことのように見えます。

しかし、より専門的な要素が強まっている治療がどんどん安易に門を開いてしまうことは、大変大きな危険をはらんでいると言わざるをえません。自分で言うのもなんですが、リウマチ専門医を自称するからには、相当な努力をしているつもりです。少なくとも、とりあえず使ってみましょうというような安易な使い方は絶対にできないのです。

厚労省は全例登録を課すことの責任を、再び製薬会社や使用する医師の側に戻したということでしょうか。少なくとも、規制緩和というような安易な言葉で説明できることではありません。医師の側は、より次から次へと出てくる様々な情報をできるだけキャッチするための網を張り巡らせないといけません。